第21話 ◇心の準備はできている



「冬馬くん、こんなときに何も意地悪発動しなくてもいいんじゃない? 」



「面白ぉ~い。

 いつもラブラブなのにどうしちゃったの?

 面白いけど」


 彩乃はどこまでも無邪気だった。




 3人があれこれあれこれ、ごそごそ、ごちゃごちゃしている内に

会話の途切れた気まずさを払拭するように六田英が何気に

三浦たちのいる席のほうに振り返り視線を送った。




 すでに亜矢子の出現を見ていた真樹夫は、

あちゃぁ~としか反応のしようがなかった。



 え~と、この先の展開は考えるだけでもやばい気がした。


 やばいと考えたのは俺だけじゃないはず、亜矢子の逃げ出そう

としている姿を見てそう確信した。



 亜矢子は元夫の英の視線を感じて、観念した。


 英のほうへ歩いて行き、ちゃんと再会の挨拶をし大人の対応をした。



「やぁ、元気そうだね」


「えぇ、あなたも。

 真樹夫大きくなったでしょ? 」



「あぁ、すっかり大人になって驚いてるよ。

 それと君までここに来てくれて。

 まさか来てもらえるなんて思ってなかったからね」 



「はは……まぁ、その……なんていうか」ゴニョゴニョ



 結局母は『少し様子見に来ただけなので私は先に失礼します』と

告げて、そそくさと俺たちをその場に残したまま鮮やかに?

退場した。



 それを義父さんが彩乃お勧めのグラタンを頬張りながら

恨めしげに見送ってた。



 次に退場したのは、会話が進まなくなった俺と実父親だった。



 俺は義父さんたちの席に付くことも憚られ、実父親と一緒に店を

出て、店の前で別れた。




 実父親は、また俺と会う気満々で帰って行ったのだが……

多分もう会うことはないだろう、そんな予感がした。


           ********



 冬馬くん、ごめんね。

 だけど、なんだかあの場にいるのは居たたまれなくって。

 なさけないけど、フラッシュバックってあるんだね。


 人の話でそういうのがあるっていうのは何となく知ってたけど

実際体験してみて、驚いちゃった。


 当時の悲しみや怒りみたいなものがぶわっと出てきそうになったの。


 あれ以上あの場にいて元夫を見続けていたら自分を失くしそうで

怖かった。



 人の感情って一筋縄ではいかないものね。


 真樹夫はぜんぜん嬉しそうでも楽し気でもなかった。

 冬馬くんといる時とぜんぜん違った。


 冬馬くんといる時の真樹夫はいつだって幸せそうに輝いてる。



 なんか……私たち4人、家族なんだなぁ~って改めて心から実感した。

 真樹夫もきっとそうじゃないかな。




 だとしたら、真樹夫が元夫に会ったことも意味があったと思いたい。

 冬馬くんが好きだなぁ。



 私と真樹夫と彩乃を愛してくれる冬馬くんが大好きだ。ハート。

 いろいろな意味で濃いぃ一日になった。


 だけど疲れたぁ~。


           ********



 翌日冬馬くんに言われた。



「マッキーに聞いたけどさ、六田先生近々亜矢子さんに復縁要請するらしいよ。


 昨日そんな言動があったんだって」



 「もしそれが本当なら……信じられない人だね。呆れた」



 「とにかく、気をつけて!! 」



 「えっ? ぁぁ、うん」


 何をさ。


 まぁ、なんとなくニュアンスは分かるけどぉ。


 それから2日後、六田英お帰りなさい会が催された。



 もうこの頃、昔からの住人(医師・看護師・スタッフ)で

三浦と真樹夫、亜矢子の様子を見ていて、亜矢子の再婚を

知っている者もかなりいたが、結局医局ではずっと旧性の

八木亜矢子で通しているので新しい医師や看護師スタッフの中には

三浦と亜矢子が夫婦だと知らない者も複数人いた。



 会がお開きになる頃、主賓の英から亜矢子は話しがあると

帰りのお茶に誘われた。


 朝、冬馬くんから話を聞いていて良かった。

 心の準備はできていた。


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