第4話 空に浮かぶ楽園

 「……本当にあるのか?」


 ソラは、目の前の光景に言葉を失った。


 大空の彼方、雲の上に浮かぶ巨大な都市——それがアトラスだった。


 建物は白い大理石のように輝き、風車がゆっくりと回りながら空気を循環させている。中央には透き通った湖があり、そこから滝が流れ落ちて雲へと消えていた。


 「まるで……天空の楽園だな。」


 ルナは小さく息をのんだ。


 「やっと辿り着いた……。」


 アトラスは、古代の高度な環境技術によって自然と共存する理想の都市として建設された場所だった。しかし、その存在は長らく伝説とされ、今では誰もその場所を知らないはずだった。


 二人が慎重にエアランナーを降ろすと、そこには待っていたかのように人々が集まってきた。




 アトラスの人々は、地球のエネルギーを搾取せず、自然と調和しながら生活していた。


 再生可能エネルギーだけを使った都市設計

 雲から水を集め、独自の水循環システムを維持

 空中農園での自給自足生活

 動植物と共存するエコロジカルな環境


 「ここは……僕がずっと目指していた未来そのものだ。」


 ソラは、夢にまで見た持続可能な未来を目の当たりにして、胸が高鳴った。


 「私にとっては……帰るべき場所なのかもしれない。」


 ルナはそう呟いた。


 「え?」


 「私の記憶が正しければ、アトラスと『失われた都市』は……深い繋がりがある。」




 アトラスの長老であるセレストは、ルナを見るなり驚いた表情を浮かべた。


 「まさか……君が戻ってくるとは。」


 「戻ってくる? 私はここにいたことがあるの?」


 「そうだ。ルナ、お前は『失われた都市』の最後の継承者なのだ。」


 ルナは息を呑んだ。


 セレストが語った真実——それは、かつてアトラスと失われた都市は姉妹都市として協力し合っていたということだった。


 しかし、アーク・エネルギー社が環境技術を独占しようとした際、失われた都市はその標的にされ、滅ぼされてしまった。唯一生き残ったのが、当時まだ幼かったルナだった。


 「私は……そのことを覚えていない。」


 「おそらく、何者かによって記憶を封じられたのだろう。だが、君が持つエネルギークリスタルこそ、すべての答えを握っている。」




 そのとき、都市全体に警報が鳴り響いた。


 「警告——未確認機体、接近中。」


 モニターには、無数の戦闘ドローンがアトラスに向かって飛来してくる様子が映し出されていた。


 「アーク・エネルギー社……!」


 ソラは拳を握った。


 「奴ら、アトラスの存在を知っていたのか。」


 「どうして……?」


 「おそらく、私のせいよ。」


 ルナが呟く。


 「私がここに来たことで、クリスタルの反応を察知したんだわ……。」


 「これを奪われたら……アトラスも、地球の未来も終わる。」


 ソラは決意を固めた。


 「だったら、守るしかない!」


 アトラスの人々も立ち上がり、戦闘の準備を始める。


 「ここはただの楽園じゃない……この都市こそ、人類の未来そのものなんだ!」

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