第3話 空の果ての戦場

 「……ひどいな。」


 雲の切れ間から地上を見下ろしたソラは、目を疑った。かつては緑に覆われていたはずの大地が、今では荒れ果てた砂漠と化していた。

 湖だった場所は干上がり、巨大なクレーターのようになっている。大気汚染のせいで空には灰色のスモッグがかかり、地上の都市はゴーストタウンのように静まり返っていた。


 「このままじゃ……本当に地球は滅びる。」


 ルナも黙ってその光景を見つめていた。


 「昔、ここは“オアシス・シティ”と呼ばれていたの。」


 「オアシス?」


 「うん。最新のエネルギー技術を駆使して、砂漠を緑に変えた都市。でも……たった数年でこんな風になってしまった。」


 「何があったんだ……?」


 ソラはエアランナーの操縦桿を握り直し、進路を調整する。彼らの目的地は、かつて世界最先端の環境技術を持っていたが、今では放棄され、誰も近寄らなくなった“エコシティ”だった。




 ソラとルナは慎重にエコシティの空域へと進んだ。そこは、まるで時間が止まったような都市だった。


 高層ビルには植物が絡みつき、街の中央には巨大な太陽光パネルや風力タービンが残されている。しかし、それらはすべて破壊され、稼働していなかった。


 「この都市は、理想の未来を作るために建てられたはずなのに……」


 ルナが呟いた。


 「どうして放棄されたんだ?」


 ソラがエアランナーを降りて調査を始めると、街の奥から機械音が響いた。


 「侵入者発見——排除モード、起動。」


 「なんだ!?」


 廃墟の陰から現れたのは、無人の警備ドローンだった。かつてこの街を守るために作られたものが、今では“侵入者”を排除するために暴走している。


 「ルナ、隠れろ!」


 ソラはエアランナーの防御システムを起動し、レーザー弾をかわしながら街の奥へと走った。




 廃墟を抜けると、二人はある建物の中へと逃げ込んだ。そこには無数のモニターがあり、まだ動いているシステムがいくつかあった。


 ルナが端末にアクセスし、データを解析する。


 「……これを見て!」


 モニターには、ある企業のロゴが映し出されていた。


 『アーク・エネルギー社』


 それは、表向きは再生可能エネルギーの開発を行う企業だったが、裏では環境破壊を利用して新たなエネルギー市場を独占しようとしている組織だった。


 「この都市は、彼らによって破壊されたのね……」


 「最悪だな……。」


 エコシティは、新しいエネルギー技術の実験場だった。しかし、それを自分たちの利益にならないと判断したアーク・エネルギー社は、ドローンを暴走させ、都市を機能不全に追い込んだ。そして、人々が去った後も、その技術を独占するために影で監視を続けていたのだ。




 「ターゲット発見。確保せよ。」


 突然、建物の外から複数の武装ドローンが襲いかかってきた。


 「チッ……やばいな。」


 ソラはすぐに防御態勢をとるが、数が多すぎる。銃撃が飛び交い、建物が崩れ始める。


 「ルナ、逃げろ!」


 「でも……!」


 そのとき——


 ルナのクリスタルが光り輝いた。


 「……また?」


 次の瞬間、彼女の周囲に浮かぶ光の粒子が弾丸の軌道を逸らし、ソラのエアランナーのエンジンが一気に加速した。


 「まさか、またお前の力か!?」


 ルナは目を閉じて、まるで何かと交信するように囁いた。


 「……私は、星の力を使えるのかもしれない。」


 その力に驚く暇もなく、二人は崩れゆく建物から脱出し、再びエアランナーに飛び乗る。


 「とにかく、ここから離れるぞ!」


 エアランナーが急上昇し、夜空へと消えていった——。

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