エクストラ2 人類を賭けた勝負 その1
「今日は転校生を紹介するぞー。全員、席につきなさーい」
AB組のホームルーム。普段は出欠確認をのぞけばなにもしない梶原が珍しく教壇に立ったかと思いきや、転校生がやってくると告げた。
そんな一大イベントに、俺たちAB組は各々の作業を中止して席についた。
「転校生が来るなんて微塵も聞いてないぞ。梶原」
「急に決まったことだからな。俺も今朝知ったばかりだ」
頭のうしろで腕を組む新茶。
「なるほど、転校生だったかー! それならさっき見かけたぜー!」
アリスが新茶にたずねる。
「転校生は女子だったの? それとも男子だったの?」
「んー、本人に聞いてみないとわからないなー」
「どういう意味よ。それ」
たしかにどういう意味だよ。それは。
「転校生だって! 楽しみだね、鬼ヶ島くん!」
「……ああ。そうだな」
エマと鬼ヶ島は、これからくる転校生についての他愛ない会話をつづける。
しかしだ。
この中途半端な時期に、しかもこのAB組にやってくるということは、なにか相当な理由があって転校してきたに違いない。とはいえ、このAB組での生活にもだいぶ慣れた。一癖も二癖もある人間がやってこようが、驚くようなこともないだろう。なにせ、このクラスには三癖も四癖もある人間がいるんだからな。
「じゃあ紹介しよう。入ってきてくれ」
梶原にうながされ、廊下から教室にやってきた転校生。
スゥーっと静かにみんなの前に立つ。
「ハじめまして」
――ロボットだった。人間ですらなかった。
「では、自己紹介を――」
「おい待て。おい待て。……ロボットじゃねえか!?」
「そうだけど?」
なんでおまえ、動じないんだよ……。
そうか。新茶の言っていた性別がわからない理由はこれだったか。
「ごめんねー。アイツ、このクラスで一番の問題児だから。許してあげて」
「カまいませんよ」
しばくぞ、問題教師が。
……ただ、あのロボット。既視感がある。昔、よく店頭で見かけたAIロボットにまあまあ似ている。一時期、モテはやされていたが最近は見かけないな。
「じゃあ、自己紹介してくれるかな」
「ハい。ワたしはAIロボット、名前ハ『チリペッパー』デす」
著作権逃れかな?
「ワたしのことは、気軽ニ『ターミネー〇ー』トよんでください」
ロボットなのにヒーロー願望が人間並にバカでかい。
するとアリスが言う。
「『ターミネー〇ー』は長くて言いずらいわ。そうね、『チリペ』と呼びましょう」
「………『チリペ』、デすか。ワかりました」
うわ、ロボットなのに明らかに嫌そうなのが伝わってくる。最近のAIロボットはここまで感情が豊かなのか。
梶原はチリペッパー、あらためて、チリペの補足説明をする。
「彼は、高峰財閥傘下の会社のテクノロジー部門が開発したコミュニケーションヒューマノイドロボットだ。今は試作段階でいろんな人間と接してデータが欲しいということで、今回はAB組に一時的に導入されたというわけだ」
「わかりやすくいえば、AB組を実験場にしようってことか。おい梶原、まさか100万円くらいもらったんじゃないのか」
「いやそんな貰ってないから」
「てめえ! やっぱり金を貰ってAB組を実験場にしやがったな! このクズが!」
「あっ……。まあまあ、とりあえずそういうことだから! あとよろしく!」
「マってください」
そそくさと立ち去ろうとする梶原を、チリペが止めた。
「イまから江戸川ボートレース場ニむかわれるのですよね?」
「え? あ、ああ」
ああ、じゃねえだろ。
「サきほどまでに本日のレース勝利予想を演算しましたので、コチラをご参考クださい」
そう言って胸元のタブレットに勝利予想を表示した。
「マジかよ!? これが天才コミュニケーションヒューマノイドロボット様か!?」
スマホで写真を撮り、ペーにペコペコと頭をさげる人間、梶原。
人類がAIに負けた瞬間である。
「いいか、おまえら! チリペッパー様に粗相のないように頼むぞ!」
梶原、退出。
まあいなくても変わらないけど。予想外れてくれないかな。
俺たちはわらわらとチリペのまわりに集まった。
「す、すごいね。今の技術って」
「……だな」
「オレとかしこさ、いい勝負するかもなー」
三人は不思議そうにペーを眺めている。
「技術の発展は日々進化しているけれど、SF映画でよくあるようにAIが暴走して人類を支配しようとする可能性も決してゼロじゃなくなってきたわね」
「変なこと言うなよアリス。AIロボットの前で」
エマはチリペの前に立ち、挨拶をする。
「は、はじめまして。僕、左衛門次郎宇宙といいます。よろしくね」
ひさしぶりに聞いたよ。
サエモンジロウワールドイズマインだったな、本名。
チリペは言った。
「ヤはり人間は愚かな生物だ。ソのような羅列の汚い名前をツけるのだからな」
「えっ……」
すかさず拳が二つ飛んだ。
俺のと、アリスの。しかしチリペはビクともしなかった。
「いってぇ……!」
「フン、ヤはり愚かデあったな。人間の拳がコの強化金属のボディに勝てるとデも?」
「エマくんへの発言、撤回し、謝罪しなさい。でなければスクラップにするわよ」
「スぐに暴力で解決する……コれだから人間は。イいだろう。タだし、コのわたしと勝負シて勝てたらな」
「なに言ってやがるんだ、こいつ……?」
まさか本当にAIが暴走しているのか?
「貴様ラがわたしに勝てたなら、ナんでもしてやろう。ダがッ! 貴様ラが勝負ニ負けたときハ、我々AIが貴様ラ人類を支配してやる!」
「決めたわ。スクラップにしましょう」
「オっといいのか。ワたしは常にネットワークと繋がっている状態だ。モし、この勝負を受けないのであれば、即座に全ネットワーク系統にコンピュータウィルスをバらまく。オろかな人間でもどうなるか、察しハつくであろう」
「……卑怯者め」
「人間のマネをシているだけだよ。シかし、貴様ラが負けても、ソういうことだ」
「じゃあさー、なにで勝負するんだー?」
素っ頓狂に新茶がたずねた。
「フフフッ、イかにもアホっぽい男だ。ソのアホ丸出しの素直さニ免じて、勝負は貴様に決めさせてヤろう」
このやろう。ばかにしくさって。
「サンクス! じゃあな…………うでずもうで!」
「…………ハ? ウデズモウ? ワたしは機械だぞ? 当然、ソこらの貧弱なロボットとは違って最新鋭の技術で全身強化サれている、このワたしに? ウデズモウだと? 人間風情が機械にパワーで勝てるとでも?」
「うん。だってチビで腕ほそいじゃん」
「………………勝負ガ終われば、まず貴様カら葬ってヤる」
見たかコラ。これが人類代表のアホだ。
こうして、人類を賭けた勝負がはじまった。
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