またね、大好き。

清泪(せいな)

ありがとうとキミに言われると何だか切ない

 夏の終わりが近づいていた。

 空は蒼く、少しずつ秋の気配が漂い始めていた。

 校庭の隅に立つ大きなケヤキの木の下で、私は彼と最後の時間を過ごしていた。


「ねえ、涼介。これ、最後に見た景色にしようよ」


 私が指差した先には、オレンジ色の夕焼けが広がっていた。

 学校の帰り道、二人でよく立ち寄った公園だった。

 ここで過ごした日々は、私にとって大切な思い出になるだろう。


「最後だなんて、まだ実感湧かないな」


 涼介は少し遠くを見つめ、無理に笑ってみせた。

 その笑顔に、いつもの強気な態度とは裏腹に、少しだけ不安そうな陰が差していた。

 私はその変化を見逃さなかった。


「でも、俺たち、やっぱり別れるべきだよな」


 涼介が突然、私の方を見て言ったその言葉に、私は驚きと共に胸が締め付けられた。

 まだ実感が湧かないと言っていたのに、まるで決心が固まったようなその言葉に、私は思わず口をつぐんだ。


「どうして……?」


「お前、遠くに進学するんだろ? 俺も転校するし……距離が開いたら、きっとお前にも迷惑かける。そんなの嫌だろ?」


 涼介がまっすぐに私を見つめ、強がりながらもその目にはどこか不安が見え隠れしていた。

 私はその目を見つめながら、言葉を探した。


「でも……私、涼介と一緒にいたい」


「そう言われても、俺だってお前のことが大好きだよ。でも、もっとお前には自由にやりたいことがあるだろ? 恋愛に束縛されるのは、俺もお前も辛いだけだと思うんだ」


 涼介はそう言って、視線をそらしながらも口元を引き締めた。

 その姿勢に、彼がどれほど私のことを大切に思っているのかが伝わってきた。

 彼なりの優しさが、少しだけ重く感じられる。


「私、涼介と離れたくない」


 その言葉は自然に口から出てきたけれど、涼介の顔が少し険しくなるのが見えた。


「俺もそうだよ」


 涼介が少し声を落とした。


「でも、どんなにお前と一緒にいたいと思っても、こういう決断をすることで、少しでもお前の未来を守れる気がするんだ。俺たちの関係が重荷にならないようにしたいんだよ」


 その言葉を聞いた瞬間、私は涼介の本当の気持ちを理解した。

 彼が私を思う気持ちが、彼なりに未来のために選んだ答えだということを。

 強引に別れを選んでいるように見えたけれど、実はそれが彼の優しさなんだと感じた。


 でも、私は、今は離れたくない。


 一度だけ、私の心が叫んだ。

 でも、それが涼介のためでもあり、私のためでもあると気づいたとき、心の中でその気持ちを静かに収めることができた。

 彼の想いを受け入れなければ、二人の未来は築けない。


 涼介がそっと私の手を握った。

 その温もりが、心に深く染み込んでいった。


「俺たちは絶対にまた会える。お前が幸せでいてくれることが、俺の一番の願いだから」


 その言葉に、私は涙がこぼれそうになった。

 でも、涼介の言葉を信じたかった。

 お互いに未来のために、今は別れるべきだということを理解しながらも、心のどこかで「またね」と言えることが嬉しかった。


「絶対に、また会おうね」


 涼介が力強くそう言ったとき、私は小さく頷きながら、「またね、大好き」と心の中で呟いた。


 涼介は背を向け、少しの間黙ったまま歩き出した。

 その後ろ姿が少しだけ頼りなく見えて、私はその背中を見送りながら、心の中で何度も「またね、大好き」と繰り返した。

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またね、大好き。 清泪(せいな) @seina35

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