海の底のダンゴウオ

@dango-fish

第1話 ダンゴウオは深い海の底に住んでいました

ダンゴウオは深い海の底に住んでいました.


暗く透明な海の底に,白い雪が静かに舞い降りてきます.

それを見ていると,どこまでも昇って行く気分になります.

いったいどんなところに辿り着くのだろう,

きっとこのきれいな雪の結晶が生まれているところに着くのだろうと,

想うのが好きでした.


ある日,いつものように雪を眺めていると,

ちらちらと小さな橙色の灯が向うの方に見えました.

近寄ってみると,あまりの美しさにうっとりしました.

そっと炎に触れると,とても暖かな幸せな気分になりました.

「どうだい,暖かいだろう,ここはとても寒いから」

その美しい灯を持った大きな魚が言いました.


ふと周りを見渡すと,真っ黒に塗り潰された絶望の闇でした.

砕けて粉々になった白い死の灰が幾重にも重く沈んで積もるのです.

ダンゴウオは眼を見開き息もできず,もうだめだとおもいました.


魚が言いました.

「眼を閉じてごらん,私が連れて往こう」

ダンゴウオは眼を閉じました.

魚は口をとても大きく開けて,ダンゴウオを飲み込もうとしました.

その喉はあまりに赤く燃えるようで,ダンゴウオの心は真っ赤になりました.

そのとき,ダンゴウオは粉々にはじけて,

その白い灰は闇に沈んでいきました.

魚は溜息をつきました.

「灯が暖かすぎた,次はもう少し冷たくしなければ」

そして痩せた体をとても寒そうにしながら泳いで往きました.

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

海の底のダンゴウオ @dango-fish

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る