僕でよかったって心から思うよ
紫峰奏
きみは幸せでしたか?
私は余命宣告を受けていた。
そのことを、蓮には言わなかった。どんな顔をして、そんな言葉を伝えたらいいのか分からなかったからだ。私がいなくなることを、蓮に伝えたくなかった。彼が悲しむのを見たくなかったから。
「きっと、何も変わらない」
私はそう思い込んでいた。蓮との毎日が、私にとっての幸せだったから、残された時間を少しでも彼と一緒に過ごしたかった。それが私の精一杯だった。
だから、私は毎晩、彼に手紙を書いていた。伝えたかった言葉を、言葉にできなかった想いを、少しでも残しておこうと思った。
蓮と出会って、何気ない毎日がどれほど大切だったのか、想いが溢れていたから。だから私は、最期の時まで彼に笑顔を見せたかった。できる限り、普通のカップルのように振舞いたかった。
いよいよ、私が宣告されていた寿命まで残り5日ほどのとき、ついに別れの時が来た。覚悟していたことだ。
しかし、それは私が想像もしていなかった形だった。
蓮が突然、倒れたと連絡が来たとき、私は何も考えられなかった。ただただ慌てて病院に駆けつけ、彼が入院している部屋に入った。見舞いに来る人々に囲まれたその中で、蓮の手を握りしめ、必死に呼びかけたけれど、彼の顔はもう何も答えてくれなかった。
「蓮……」
その日、彼は私の手を握り返すことなく、静かに息を引き取った。
最初、信じられなかった。彼がもういないなんて考えられなかったから。でも、彼がいなくなった世界で、私は一人取り残されてしまった。どうして、私が先にいなくならなかったんだろう……。
数日後、蓮の部屋で整理をしていた時、ふと、彼の机の上に一通の手紙を見つけた。私に宛てて書かれたものだった。手紙には、彼が言えなかった想いが込められていた。
それを開けると、彼の字でこう書かれていた。
ーー
「みーちゃんへ」
「僕たちが出会ってから、どれだけ幸せだったか、言葉では表せないよ。みーちゃんがいるだけで、毎日が光り輝いていたよ。君が笑ってくれて、僕はどんなに病気が辛くても乗り越えられた。
君が少しでも幸せだったのなら、僕も幸せだった。
でも、みーちゃんには言わなければいけないことがある。僕は実は病気に苦しんでいたんだ。余命宣告までされていた。最初は涙が止まらなかった。でも、君のことを悲しませたくなくて言えなかったんだ、ごめんね。
先に亡くなるのが僕でよかったって心から思うよ。君のことを心から愛してる。君と過ごした時間は、何よりも大切だった。僕は本当に幸せだったよ、ありがとう。幸せになってね」
ーー
手紙を読んだ私は、胸が締め付けられるような感覚に包まれた。
彼も、私と同じように隠していたのだ。私が先にいなくなると思っていたのに、まさか彼が先に逝ってしまうなんて。
「どうして……どうして言わなかったの?」
私は声を震わせて叫んだ。涙が頬を伝い、息が詰まり、言葉を続けることができない。胸が締め付けられて、息が苦しくて、目の前がぼやけてきた。嗚咽が止まらず、肩が震える。唇をかみしめても、涙は止まらない。心が引き裂かれるような痛みが、胸を満たして、ただ彼の名前を呼ぶことしかできなかった。
今さら言っても仕方ないけれど、私はどうしても彼に伝えたかった。
「ねぇ、私が先のはずだったでしょ?」
そして、私は自分の手紙を引き出しから取り出した。そこには、以前から書いていた蓮に伝えたかった想いが書かれていた。
ーー
「蓮へ」
「私がいなくなることを、蓮には知らせたくなかった。蓮が悲しむのを見たくなかったから。だから、気づかれないように、ずっと笑顔で過ごしてたの。
ごめんね、突然のことで驚いてるよね。でも、泣かないで前を向いてほしいな。私は蓮の笑顔が好きだから。私は、蓮と出会えて、本当に幸せだったよ。君と過ごした時間が、私の一番の宝物だよ。余命宣告を受けてからは、毎日の幸せを手紙に残すことにしてるの。だから、少し恥ずかしいけど、他の手紙も読んでくれると嬉しいな。
蓮が幸せだったかは、私にはわからない。でも、君と一緒にいられたことが、私にとっては何よりの幸せだった。私は、蓮が愛してくれていたことを、ずっと忘れないよ。君が、私を支えてくれたこと、心から感謝してる。
君は、幸せでしたか?
ーー
私は手紙を読んでいた。涙で文字が滲むけれど、もうそれを気にすることはなかった。
どんどん息が苦しくなってきていた。
あぁ、やっと蓮と会える。
そして、私は静かに目を閉じたーー。
僕でよかったって心から思うよ 紫峰奏 @shihou-kanade
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