第18話

 やべぇ緊張してきた。


 俺が負けたら部室はゲーム部の物になってしまう。こんな緊張した場面に遭遇したことがないから吐きそうなんだけど。


 気持ち悪りぃ、こんな事なら中堅に立候補しとけば良かった。しかも俺、サッカーゲーム得意だったから尚更中堅にうってつけだった。


 副将って柄でもないしな、俺も水野も。


「君が負けちゃうとチェックメイトだね」


「プレッシャーかけないでください」


 生徒会長は余計な声掛けをしてくる。生徒会長なら生徒のことを想って温かい声かけをしてくれ。


 生徒会長が変な声かけしてくれるから緊張で震えが止まらないじゃねぇか!どうしてくれるんだよ、水野はそんな緊張するようなキャラじゃねぇんだよ!完全に守口宏人が出てきてるから。


「大丈夫」


「…へ?」


 フミちゃん先輩は俺の両手を握り出した。


 え?え?え、え?お、俺、フミちゃん先輩と結婚するの?式場はどこにしますか?



 …落ち着け、手を握られただけでプロポーズをされたわけじゃない。だからその気色悪い勘違いはやめろ。


「ど、ど、どうしたんですか?」


「私が緊張した時はおばあちゃんがこうやってくれたから」

 

 いやいやいや、それをしたら別の緊張が俺を襲ってるんですけど!あのババア、もっとマシな緊張の和らげ方教えとけよ!


 これがこの状況以外だったら涙を流して喜んでたのに…、こっちにも心の準備があるから。


 でも、俺を応援しようとしてくれる気持ちは嬉しい。


「よし!」


 頑張りますか。原作もそうだけど、フミちゃん先輩の大切な場所だからちゃんと守らないと。


「頑張ってよ。最後はキングをとるゲームにしよう…せめてね?」


 だから!プレッシャーかけんなよ!やっと緊張から解けてきたというのに、この生徒会長は人の心が無いのか?


「ちょ、あー、…やっぱ良いです」


 ちょっと一言言ってやろうとしたけどこの人に言っても聞かなそうだったからやめた。


「頑張れよ、ブラザー!」


「お、おう」


 早乙女に背中をパンッと叩かれた。


 こいつ生徒会長に影響されて英語使い始めちゃってるよ。


「じゃあ第4試合目の対決内容を発表するよ」


 きた。


 全然対決内容次第で俺が勝つ可能性が高くなるぞ。


「対決内容は…



 第5試合目の対決内容を当てること!」






「「…はい?」」


 対戦相手のゲーム部の人とリアクションが被ってしまった。


 そらそうだよな、さっきまでただテレビゲームをしてたのに急にクイズになってんだもん。


 俺テレビのクイズ番組で答えられた記憶が無いほど苦手なんだけど、大丈夫?


 あれ、もしかしてもう勝負決まっちゃった?


 おーいーオリジナリティ出してくんなよ!それなら普通にゲーム部とゲームで戦わせてくれよ!まだそっちの方が勝率あったのに。


「ゲームって言っても色々あるからね、テレビゲームにボードゲームにカードゲーム。制限時間は今から10 minutesで」


 そう言って生徒会長は携帯で時間を計り出した。


 なに?もしかしてそれがヒントのつもり?だとしたらヒント出すセンス無いよ?だってそれヒントじゃないもん。


 うちのおばあちゃんはヒント出すの上手かったよ、徐々に答えに向かっていく良いヒントを出してくれたからね。


 …やばいかもしれない、これ制限時間内に答えられなかったら引き分けになってしまう。


 これ、引き分けになったらどうなるんだろう?引き分けだったら最後勝てばどっちも2勝2敗1引き分けになるけど。


「もし、引き分けになったらどっちも負けって判定になるから」


 …終わった。


 最後の望みが消えてしまった。これでもう完全に追い込まれてしまった。


 ど、ど、ど、どうしよう…、何も思いつかない。


「ヒントってありますか?」


 これはヒントを求めないとやってられん。


「ヒントなんかいりませんけどね?」


 ゲーム部の奴はヒントを拒む。


 そら、俺が答えられなかったら自然とゲーム部の勝ちだからヒントなんか無い方が良い。


「え?もしかして俺が答えられないのを望んでるの?それって自分も答えられないって言ってるようなもんだよね?別にそっちが答えてもそっちの勝ちなんだよ?」


 負けたら終わりだから出来ることは全部やる。だからヒントがどうしても欲しいから全力で煽る。


「あ、ごめんなさい。もしかしてビビってます?ゲーム部なのに俺にゲームで負けるのが怖くてビビってます?だとしたら申し訳ないです」


 煽る時は煽れば煽るほど良いから、腹が立ってあっちが殴りかかってきたらそれで俺の勝ちだから。


 手出すのって流石に反則負けだよね?


「はい?ビビってないが?全然真正面から勝ちますけど」


 よし!煽りにのってくれた。


「ん、じゃあヒント出すね。ヒントはねぇ…僕の好きなゲームだよ」


 こいつさぁ…、だからヒントになってねぇから!ヒント出すセンス無いなら生徒会長辞めちまえよ!


 …もういいや、こいつがヒント出すセンス無いのはさっきで分かってたことだから。


 こいつどこかで自分の好きなゲームの話してたか?してないよな?でも、どこかで絶対に好きなゲームの話してないとこんなクイズ出すはずかない。


 だとしたらこれまでの会話に絶対にヒントがあるはずだ。


 回せ、回せ、脳みそを限界まで回せ。他のことは何も考えるな、生徒会長のこれまでの会話以外何も頭に入れるな。


 生徒会長の発言で何かおかしなことあったか?いや、あいつ変な英語ばっか使ってそれどころじゃなかったな。


 そのセンスある感じのクイズ出したいならもっとセンスのあるヒント出さないと!あと、変な英語ばっか使うなよ!変な英語のせいで頭がこんがらがるだよ!






 …英語。



 …変な英語。



 …そんな訳ないよな?



 …でも、もうそれしか無いよな?


「…分かったかも」


「「「!」」」


 俺の発言にみんなが驚きの表情を見せる。


「おかしかったんだよ、生徒会長が変なところで英語を使ってることが。その変な英語はいくつかの英単語を隠したかったんだよな?」


「隠す?」


 そうなんだよ、生徒会長ってそもそもあんな変なところに英語を使うキャラじゃないんだよ。


「ナイト、クイーン、キング、これらを隠したかったんだろ?それに俺に君が負けちゃうとチェックメイトだね、っていう発言」


 ここまで言えばもう分かるよな。


「最後にキングをとるゲームをしようっていう発言、これで確信に変わった。あまりに分かりやすいから最後にせめてね、って付け足したんだろ?」


 そう、こいつはすでに答えを俺らに伝えてたんだ。


 ナイト、クイーン、キング、君が負けちゃうとチェックメイト、最後にキングをとるゲーム、こいつちゃんとヒント出すセンスあるじゃん。


「つまり第5試合目やるゲームはチェスなんだろ?」


 ここまで自信満々に答えてるけど全然間違ってる可能性あるからね。


 これで間違えてたらめちゃくちゃ恥ずかしいから逃げる準備はもう出来てる。


 頼む!もう後がないんだ!だからさっさと正解って言ってくれ!


「ファイナルアンサー?」


「…ファイナルアンサー」


 だから、さっさとどっちか言えよ!心臓がもたないだろ!



「………






         …正解!」


 あっぶねぇ!正解なのかよ!


「よっしゃー!繋いだぞー!」


「うぉぉ!お前は天才だー!」


「うぉぉ!俺は天才だー!」


 俺と早乙女は抱き合って喜びを分かち合う。


 気持ちいぃ…。謎解きにハマってる人の気持ちが分かるわぁ。何、この快感、これはもう抜け出せませんわ。


「ありがとう、祥太くん。これでまだ希望が残ったよ」


「はい!先輩もチェス頑張ってください!」


「うん!初めてだけど頑張るね!」



 


「「「「へ?」」」」


 う、嘘だよな?


 ここまで来てそんな事ある?


「やりましたね部長!相手は初心者らしいです、勝ちはこっちのものです!」


 ゲーム部の奴らはフミちゃん先輩の初心者発言でさっきまでの重たい空気から一気に勝ちムードになった。


 そら、あの感じだったらこっちの逆転勝利の流れだったもん。


「…悪い。俺もルール知らん」



「「「「へ?」」」」






「「「「わーい!わーい!わーい!」」」」



 泥試合の結果、なんとかオカルト研究部が勝ちました。


「やりましたね、部長!」


「みんなのおかげだよ!」


 ピロリン♪


「ごめん、電話だ」


 フミちゃん先輩は俺らからちょっと離れて電話に出る。


「どう?どう?俺かっこよかった?」


 新色と久田ちゃんに感想を求める。


「はいはい、かっこいいかっこいい」


「…普通」


 照れちゃってかっこいいならかっこいいって言っても良いのに。


「めちゃくちゃかっこ良かったぞ!」


 ほらね、早乙女はめちゃくちゃ褒めてくれるもん。あのイケメンの早乙女がかっこいいって言ってくれるんだよ?めちゃくちゃかっこいいじゃん、俺。


 

 ガタン。


 何かが落とす音が聞こえた。


 音のする方を見るとフミちゃん先輩が携帯を落としていた。


「ど、どうしたんですか?」


「お、おばあちゃんが危ないって…」



















 …は?


 





 


 

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