第8話
「お前本当に水野祥太か?」
え、え、え、え、あ、え?あ、ちょっ、ま、は?お、え?え!?
バ、バ、バ、バレた!いや、まだバレてない。まだこいつは疑ってる段階だからまだバレてない。バレてないよな?もしかてもうバレてる!?
「は、は?な、何言ってんだよ。水野祥太に決まってんだろ」
「お前ちょっと前まで料理なんか出来なかったし、俺は一生料理しねぇ、って言ってたから」
こいつ俺が転生する前にそんな事言ってたのかよ!でも、水野祥太は料理しなさそうだから納得してる。つまり俺の水野祥太への理解が浅かった訳だ。
とりあえず今だけはこいつを騙さないと。
「馬っ鹿だなぁ。今モテるの料理が出来る男、料理男子だぞ。じゃあ俺が料理するのは当然の事だろ?」
ど、どうだ…?
「相変わらずすごいなお前は。その行動力が他のところにあればなぁ、もったいない」
はぁ〜…ふぅ〜…。ギリギリセーフ。
「うるせぇ。俺はモテるためなら何だってするさ」
「やっぱりお前は祥太だな」
「当たり前だろ」
良かった、あと少しの所でバレるかと思った。あいつ普段とか恋愛とか鈍感なくせにこういうのは敏感だな。厄介な奴だな。
う〜んでも、バレた所で何かデメリットがあったのか?俺が本気の水野祥太じゃない事でヒロインの好感度が下がる訳じゃないからバレても良かったのか?でも、バレない方が上手くいきそうだからこれからも黙っていく方がいい気がする。
「まさか本当にお前が料理出来るとはな」
「料理っつても野菜切っただけだからな」
大袈裟だなぁ、野菜切っただけでこんな言われたらお得な気分になってしまうな。
カレーも食べ終わって宿泊施設でのんびりしてる。風呂も入って眠たくなる時間だ。このまま寝室に戻って敷いてある布団にダイブをかましたいところだけど、俺の夜はまだまだ長い。
ちなみに寝る部屋は新色と久田ちゃんとは別の部屋だ。流石にね?男女一緒になるのはね?色々…ね?一応これギャルゲーですから。
「で、お前は何人から部屋誘われたんだよ」
「な、何が?」
「な、何が?じゃねぇよ!テメェ女子から部屋来てって言われてんだろ?」
こいつにはヒロインがいるのにヒロイン以外からもモテるとかズルいだろ!せめてヒロインだけにしてくれよ!嫉妬でどうにかなりそうだ。
さっきのな、何が?は我ながら似てると思ってる。早乙女からしたらウザいだろうな。
「隠しても無駄だからな、こっちには信頼できる情報屋がいるからな」
こいつはクラスや学年、学校の情報を知り尽くした情報屋がいる。ゲームにたまに出てきては有益な情報を教えてくれる有能キャラなんだよな。
「で、お前はどの部屋に行くつもりなんだ?俺たちの関係だろ?教えてくれよ〜」
「行かねぇよ。バレたら先生に怒られるのにそんなリスク負いたくないし」
「バカかお前は、学生は怒られてナンボだからやりたい事やらなきゃ後悔するぞ」
自分で言ってて深く自分の心に突き刺さる。俺はやりたい事やれてないし、先生に怒られてすらいなかったな。そもそも先生は俺の存在に気づいてたのかな?
「そもそもお前は気になる人はいるのかよ」
これは地味に重要なセリフでこの言葉でちょっとだけヒロインの事を意識するシーンである。鈍感野郎だからこのセリフが無かったら今後の展開が変わる可能性すらある。
「い、いねぇよ!」
このチェリーボーイが。別に俺は気になる人を聞いただけなのにこの反応はチェリーボーイだな。イケメンのくせにこれがあるから憎めない。
「何焦ってんだよ、気になるが1人や2人、10人いてもおかしくないからな」
「10人はおかしい。俺はそんな人間じゃない」
「紳士ぶるなよ、お前はモテるんだから10人いても何の問題もないと思うぞ。最後に1人選べばいいだけの話じゃねぇか」
「た、確かに。一理ある」
「で、気になる人はいるのか?親友の俺だけに教えてくれよ、誰にも教えねぇから」
「嘘つけ!お前に言ったら一瞬で学校中に広まるだろ!お前ほど口が軽い奴は今のところ知らないからな」
「ちぇー、ちょっとくらい教えてもバチは当たらないと思うけどな。俺たち親友だろ?」
「…じゃあ好きになったらちゃんと相談に乗ってくれよな」
こいつ水野祥太の「俺たち親友だろ?」にめちゃくちゃ弱い。これを言ったら早乙女は何でも言うことを聞いてくれる便利な言葉だ。
今回はしょうもないお願いだけど、いざとなったら使える切り札になる。これは使いどきが肝心だからちゃんと見極めて使わないとな。
「あたぼうよ!」
これだけのやり取りで早乙女流星と水野祥太が親友だと分かる。ほんの少しだけ騙してる罪悪感はあるからちゃんと俺は親友ポジを全うしようと思った。
「じゃあ部屋に戻って朝まで神経衰弱やるか!」
「しねぇよ!」
なんて会話をしてるとやってくるはずだ。
次のイベントが。
「水野!早乙女!」
ほら。
新色が俺たちの元へ走ってやってきた。膝に手を置いて肩で息をしながら俺たちに何かを伝えようとしてる。
良かった、来なかったら原作が進まずに終わるところだったから。これがあるおかげで久田ちゃんのプロローグが無事に終わることが決まった。
「落ち着いて。新色は何をそんなに慌ててるのんだ?」
「久田ちゃんがいなくなった!」
はい、勝ち確。
このイベントはいなくなった久田ちゃんを主人公である早乙女が助けて、ここで久田ちゃんが早乙女のことを意識し始める重要なイベントだ。新色でいうキーホルダー探しみたいなやつだ。
なぜ久田ちゃんがいなくなったのは、あの校舎裏の3人組の仕業だ。3人組が久田ちゃんを呼び出してそのまま暗い場所に置いてけぼりにしたのである。
「ハルカちゃんがいなくなった!?」
知ってるのにこんなに大袈裟に驚くのは恥ずかしい。けど、絶対に初見のリアクションをしないと怪しまれてしまう。
「うん。もう1時間以上戻ってこないの」
「連絡はした?」
「連絡先知らない」
心を開いてない久田ちゃんの連絡先をもらうのは難しいぞ〜。心を開いてからでも結構時間かかるからな。でも、初めてもらった時はガッツポーズしたなぁ。
「最後に会ったのはいつか覚えてる?」
「お風呂に入る前に見た」
「とりあえず探しに行こう」
「え、先生に言わなくていいの?」
流石は新色だ。当たり前だけどここは冷静に考えたら先生に言うのが正しい。だけど、ここギャルゲーだよ?ゲームの都合上先生に言ってしまうのは良くない。なぜならさっきも言った通り久田ちゃんを見つけて救い出すのは早乙女の役割だからだ。
「そんな事してる暇なんてねぇよ!こんな事言ってる今にもハルカちゃんが危険な事に遭ってるかもしれないぞ!」
先生を呼ばれたらまずいから今俺たちだけで行くぞ、と言う。
「そうだな、行くか」
「じゃあサラサちゃんはすれ違いがあるかもしれないからここに残ってて」
「嫌。私も行く」
「分かった、じゃあ3人で探しに行こう。見つかったら連絡しろよ」
そして俺たちは外に久田ちゃんを探しに飛び出した。
…あれ?新色って原作の時は久田ちゃんを探しに行かずに残ってたような気がするんだけど。あれ?俺の記憶違いだったかな?早乙女がカッコよく助けるシーンはよく覚えてるんだけどな。
ちょっと待って、早乙女と久田ちゃんが帰ってきた時に心配そうに新色が待ってたシーンがあったから…、あれ?また原作からズレた?
おいおいおいおいおいおい。だから!どうして原作通りにいかねぇんだよ!今まで何もミスって無いのによ、それで原作からズレてたらもうやりようが無いじゃん。
まぁでも、今回は早乙女が久田ちゃんを見つけさえすれば良いからまだ優しい。これくらいのズレだったら全然取り返しがつく。
じゃあ俺がやる事は早乙女に久田ちゃんの場所を教えて、俺が新色の足止めをする事だ。
「リューセイはあっちを探せ!俺はこっちを探す」
「おう!」
これ何気に早乙女のことを名前で呼ぶ珍しいシーンなんだよ、基本的に水野祥太は「親友」か「相棒」か「お前」って呼ぶから。名前で呼ぶのが恥ずかしいのか?本当男子ってよく分からない。
これは手分けして探してると見せかけて実は早乙女に久田ちゃんの居場所を教えた。あの指示の意味は(あっちに久田ちゃんがいるから)あっちを探せという意味が含まれてる。
これで今回も何とか上手くいきそうだ。今回原作からズレたのは今のやつだけかな?じゃあズレてないのと一緒だ。
「サラサちゃんは危ないから俺から離れるなよ」
「…うん」
はい、完璧。これで新色が間違っても久田ちゃんを見つける事はない。
これが今回だけじゃなくて毎回こんな楽だったら良いのになぁ。それだったら俺はただ学校生活を送るだけの簡単な作業になるんだけどなぁ。今回がこれだから全然有り得るぞ。
それに終盤になるにつれて俺の出番は減ってくるから最初だけ頑張ればあとは早乙女に任せるだけだ。終盤に出てくる水野祥太はほぼ空気だからな。
「そんな一生懸命探して久田ちゃんの事好きなの?」
俺が一生懸命探してる"ふり''をしてたら新色に話しかけられた。
「そんなんじゃないよ。大事なクラスメイトだから」
本当はだ〜い好きなんだけどここで重い想いを爆発をさせる訳にはいかない。
「今日ずっと久田ちゃんの事ばっか見てたし」
「甘いな、俺は女の人は常に見ているのさ」
「…変態」
その言葉はご褒美ですか?めちゃくちゃイイんだけど。
「お〜い」
早乙女の声だ。もう久田ちゃんを見つけて連れて戻ってきたのか、えらい早いな。それに俺らなんか放って早く宿泊施設に行けばいいのに。
…ん?俺には早乙女が1人に見えるんだけど。久田ちゃんがどこにも見当たらない。
「こっちには久田いなかった」
「は!?」
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