第7話

 そこまで嫌われるような事でもした?でも、キーホルダーの件を考えると嫌われても仕方ないと思うな。仕方無かったんだよ!原作通り進めるにはこれしか無かったんだよ!


 …ごめん、甘えてた。俺はヒロイン達とイチャイチャラブラブするのが目的か?違うだろ?ヒロイン達に嫌われてでもおばあちゃんに会うんだろ?じゃあ嫌われるのも本望と思えよ。


 そうやって自分に言い聞かせて新色のバッグを持たせてもらう。


「どう?」


「どう、とは?」


「嬉しい?」


 嬉しい?…だって?悔しいに決まってんだろ!ってはっきり言いたいけどちょっと嬉しいから困る。どうして俺という男はこんなにも情けないんだ!持ってるバッグを放り投げるくらいしろよ!でも、新色のバッグを持ててる事は嬉しいんだよ!


 新色が俺の事をパシリだと思ってる事は悔しいけど、新色の私物であるバッグを持ってる事自体は嬉しい。新色の私物を触った手は当分洗うことが出来ない。


「う、嬉しいよ」


「そう?…へぇ〜」


 原作じゃどれだけ嫌いでもここまではしなかったのに、俺は原作を超えてしまったのかもしれない。俺が嫌われ過ぎても別に早乙女の好感度には影響しないからこのままでも良いんだけどさぁ…、せっかくならちょっとは良い思いしたいじゃん。


「ねぇ」


「あ、ごめん。待った」


 新色が何か話しかけようとしたけど、俺はそれを止めた。なぜならもう少しでさっき言ってたイベントが発生するからだ。ころびそうになった久田ちゃんを早乙女が受け止めてあげる所が。


 これはチェックしとかないとファンを名乗れない。だからいつでも起こってもいいぞ。


「っ!」


 ほい、キタ!久田ちゃんはバランスを崩して前のめりになってころびそうになる。

 

「おっと」


 それを早乙女がガッシリと受け止める。こいつは本当に主人公だな。俺だったら一緒に転んでたぞ。


「大丈夫?」


 爽やかなイケメンフェイスでそんな事言われたら好きになっちゃうよ。そう俺の中にある乙女が言ってる。


「触んな。誰が助けろって言ったんだよ」


 久田ちゃんはすぐに早乙女から離れて、先に歩いていった。


 これはすっごい後になるんだけど本当はありがとうって言いたかったんだよね?ビックリしちゃって言えなかったんだよね?それを知ってからこれを観るとまた別の見方になるんだよな。


「これは良いものを観てしまった」


 早乙女と久田ちゃんには聞こえないくらいの小声で呟いた。普段はこんなキモイ事は言わないように心がけてるけど思わずポロっと出てしまった。


 でも、よく抑えた方だよ?本当だったら山びこする勢いだったから。「いや、可愛すぎんだろぉ!」が反射して返ってくるところだった。


「……」


 ドスッ


 脇腹に何か当たった感触がした。


「……」


 振り返ってみたら新色が俺の脇腹に拳を突き出していた。


「あの〜どうしました?」


「……」

 

 ドスッ


 再び俺の脇腹に拳を突き出す。俺何かした?嫌われてはいるけど暴力を振るわれるような事はした覚えがない。いや、痛くはないから良いんだけどね。


「あの、聞こえてますか?無言は怖いんですけど」


「久田ちゃんの事見過ぎじゃない」


 確かにあのイベントを観るために久田ちゃんを観てたのは間違いないんだけど、なぜ新色の機嫌が悪くなるんだ?


「見過ぎって大袈裟だなぁ。目が追いかけちゃっただけだよ〜」


 意味はほぼ同じだ。


「そうなんだ、ふ〜ん」


「そうだよ」


「じゃあちゃんと私も危なくないか見といてよ」


「任せて!サラサちゃんは俺がいつも見てるから」


「…そう。なら良いんだけど」


 そう言って前を歩いて行った。


 な、何だったんだ?どういう事?結局俺は何をやらかして新色を怒らしたんだ?有識者の人は俺に教えてください。


 








「じゃあ今から飯盒炊爨とカレー作りだ。班で協力して作れよ、サボったら飯抜きだからな」


「「「はーい」」」


 ここはそこまで原作に出てこないイベントだからただただ美味しいカレーを作れば良い。


「役割どうする?」


「私野菜切る」


 久田ちゃんは野菜を切ると言ってすぐにこの場から離れた。まだこの時は1人が好きなんだよね。


「じゃ俺も野菜切るわ」


 本当は火をつける役割が良かったけど久田ちゃんの野菜切るところを近くで見たい。猫の手で野菜をトントンと切る姿を近くで見れるなら見ないと損する。


 やっぱ火もつけたいなぁ、火ってかっこいいじゃん。ずっと観てられるんだよな。たまにキャンプ動画の火がパチパチ音がするだけのやつを観る時ある。漫画やアニメのキャラクターも火属性が好きなんだよな。


「……」


 俺と一緒なのがよっぽど嫌だったのかめちゃくちゃ嫌そうな顔で俺を見てくる。


「大丈夫。別に話しかけたりしないから」


「……」


 それを聞いて特に何も言わずに行ってしまった。よっぽど水野みたいなタイプは苦手なんだろう、さっきみたいに話しかけるのはやめておこう。


 それに俺が久田ちゃんの所に行った事で新色と早乙女をペアにする事が出来る。新色の好感度が上がるし、早乙女といる事で機嫌が治るかもしれない。


 さてと、野菜を切りまくりますか。


 

 4人分のカレーだから野菜は切りまくる必要は無いけど、他の班の奴から火をつける手伝いをするから俺らの班の野菜も切ってほしいと言われた。だから野菜を切りまくる事になった。


 トントン


「……」


「……」


 お互い無言で野菜切っている。が、俺はチラチラとバレない程度に久田ちゃんを見ていた。


 あ"あ"ぁ可愛いよぉ。あの感じで猫のお手てで野菜を切るギャップに殺されてしまいそうだよ。ゲームには無かったシーンが観れて俺はもう思い残すことは無いよ。ゲームだったら絶対にスクリーンショットして、保存はしてたね。


 頑張れ俺の脳!頑張って今着てるジャージの上にエプロンをかけてくれ!目ではジャージしか見えないけど脳内のフィルターでエプロンをかけてくれ!


 今本気出さないでいつ出すんだよ!脳が焼けそうに熱いけどそんなのは関係ない、脳を動かせ!手は動かさなくていいから脳を動かせ!


 熱い!脳が熱い!


 いや、熱い。


「熱っ!なに?…お湯?」


 髪の毛が濡れてるから脳が熱いんじゃなくて本当に熱かった。でも、誰がお湯を俺にかけたんだ?


「手、止まってるよ」


 新色だった。新色が俺がサボってる事に腹を立ててあっついお湯を被せた。何してんだよ、早乙女は!ちゃんと新色の機嫌取れよ!新色は真面目だからサボりを許さないんだよ。自分が真面目にやってるのに俺がサボってたらそら怒るよ。


「わ!ごめんごめん。ぼーっとしちゃってた?教えてくれてありがとね」


「あと、チラチラ見過ぎ」


 バ、バレてたぁ。これは恥ずかしいやつ、じっくり見てたら恥ずかしくないんだけど、チラチラ見てたのがバレるのは恥ずかしい。


「……」


 久田ちゃんがすっごい俺を睨んでる。ごめんって!だってすっごい可愛かったんだもん!そら見ちゃうって!


「いやいやいやいや、そこまで見てないよ。ほら、俺めっちゃ切ってるし」


 俺の前には切られている野菜がゴロゴロと転がってる。久田ちゃんと同じかそれ以上に切ってるから久田ちゃんはまた野菜を切り出した。


 新色が見てる時だけ手が止まってたようだ、ちょっと脳内フィルター作成に本気を出し過ぎたようだ。


「あー、そう、ごめんね。ちゃんと切ってるならこっちも文句は無いから」


「俺の方こそ団体行動なのにサボってごめんね。頑張って野菜切るから楽しみにしててね」


「ん」


 まさかバレてるとはな。新色って真面目な子だから怒っちゃったよ。それにしてもよく見てたなぁ、俺だったら嫌いな奴なんか見ないからとんでもない視野をしてる。


「どう?調子は」


 また野菜を切りまくってたら早乙女に声をかけられた。お前が新色の機嫌取らねぇから怒られちゃったじゃねぇか。


「よぉ相棒。そら絶好よ、ほら」


 山積みになってる切った野菜を早乙女にドヤ顔で見せる。


「…お前本当に水野祥太か?」


 ギクッッッッ!?














 バ、バレた?!

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る