幼馴染みは踏み込めない

マグ

第1話






「高校に入学して早1か月。どうして俺には女友だちの1人もできないんだ!」


 放課後の教室。俺、中間和人は、仲良く連れ立って歩く男女を眺めながら、1人悪態を吐いていた。


 男女3人ずつで数を合わせていると言うことは、風の噂で聞く『合コン』とかいうやつでもするんだろうか。なんと妬ましい!


 なにが恨めしいって、その中の男子2人は、俺の隣と前の席の男子だってことだ。なんだったら、割と仲良く友人付き合いをさせていただいている。昨日だって男3人でカラオケに行って盛り上がったんだよ?


 それなのに、どうしてこういうときに限って俺に声をかけてくれないんだろうか。もし上手くいくようなことがあれば、全力で呪わせてもらおうとしよう。


「はぁ、彼女じゃなくても良いから、女の子の友だちぐらいは欲しいよなぁ」


「ほ~。それはアタシが、女の子じゃないって言いたいのかな~?」


「いきなり後ろから声をかけないでくれるかな、東城さん」


 声がした方へ振り返ることもせず、聞き慣れた声の主の名前を呼んだ。


 東城さくら。現在の俺の高校生活において、いや、この15年という短い生涯において、初めてにして唯一できた女子の知り合いだ。果たしてこいつとはどうやって仲良くなったのか、物心つく前から一緒にいて、気がついたら仲良くなっていたので覚えていない。


「ぶ~!東城さんなんて、かずくんはいつからそんな他人行儀な子になっちゃったの?」


 文句を言いながら、東城さんは俺の首に腕を回して抱きついてくる。周りに誰もいないから良いものの、こんなところを見られたら、女友だちができるどころか、女子から白い目を向けられてしまうかもしれない。


「子どもじゃないんだからくっつくなよ!お互い高校生になったんだから、もう少し距離間を考えろよ!」


「え~?じゃあ、あそこの2人くらいの距離間なら良いの?」


 東城さんが指差したのは、校舎の影になって人通りの少ない一角。そこにはお互いの顔を寄せ合い、今にも唇が重なり合いそうに―――


「爆発しろ!リア充共が!」


 そう叫びながら、思わず視線をそらしてしまった。なにが悲しくて他人のキスを見せつけられねばならんのか!


「あ~あ。かずくんが大っきい声あげるから、ビックリして止めちゃったよ?」


「あんなとこでしようとしてるヤツらが悪いね。神聖な学び舎でなにしようとしてるんだか」


「みんな普通にしてるよ?教室の隅っことか、階段裏とか」


 そんな普通、俺は知らないんだけど?もしかして俺、高校入学と同時に、別の世界線に異世界転生でもしちゃったのか?


「なのにどうして、俺にはその相手がいないんだ」


「じゃ、じゃあさ、アタシが・・・・・・して、あげようか?」


「そんなことより、いい加減離れてくれよ。こんなところ誰かに見られたら、本当に女子の友だちができなくなっちまぅ痛たたたたた!首筋囓るな!そこ頸動脈だからマジ止めてくれ!」


「知らないよ、ばか!」


 人の耳元で大声をあげた東城さんは、そのままパタパタと足音を立てながら教室から飛び出して行った。


『じゃ、じゃあさ、アタシが・・・・・・して、あげようか?』


 先ほど東城さんに言われたことを、頭の中で反芻する。


 小さいころから一緒にいるけど、あんなことを言われたのは初めてだ。思わず突き放すように言ってしまったけど、拒否しなかったら今頃どうなっていたのだろうか。


 今頃になって心臓がバクバクとうるさく鳴っているし、顔も恥ずかしいくらい熱くなってきた。


 みんな普通にしてることだと言っていたから、仲の良い男女ならそれくらいはあいさつ代わりみたいなものなのか?欧米の文化がそこまで日本に浸透してきたってことなのかも。


「まあ、そんなのは女子の知り合いもいない俺には、わかりっこないけどな」


 もう一度窓の外に視線を向けると、先ほどの男女が仲良く手をつなぎながら下校していた。その様子を見ながら、首筋に感じた痛みにそっと手を当てる。ふむ。どうやら出血はしていないようだ。


 特に残っていてもすることはないので、俺も帰ることにするか。


 下校途中の電車の中で、正面に座っていた女子高生たちがやたらと俺の方を見ていたので、これはもしかして、ついに俺にもモテ期が来たか!なんてこころの中で大喜びをしたのだが、たんに俺の首筋についていた歯形を見ていたことに気がついて、かなりショックを受けた。


 女子と仲良くなるのは、なかなか難しそうだ。








「う~!かずくんのばかばかばかぁ!そんなことよりってなに?アタシのキスはそんなことだってのかぁちくしょうめ!」


「いきなりキスしようなんて言われて、中間くん、ひいちゃったんじゃないの?」


「え?うそ?アタシ、ひかれた?」


「もしくは軽い女だと思われたとか?」


「・・・・・・しょんなぁ」


 教室でかずくんから逃げ出したあと、アタシは友だちの卯月百合香と合流して近所のファミレスに来ていた。もちろん、さっきのグチを聞いてもらうため。そして、どうやればかずくんにアタシの気持ちが伝わるのか、相談するためだ。


「もうさ~、とっとと告っちゃえば良いんだよ。それが1番手っ取り早くて、齟齬なく気持ちが伝えられんでしょ」


「そ、それはそうかもしれないけど、もしフラれちゃったらって思うと、どうしても言えなくて」


 アタシはかずくんが好きだ。物心ついたときからずっと大好きだ。もうこれは、遺伝子レベルでかずくんを愛していると言っても過言じゃない。


 アタシの生活は、かずくんがいるのが当たり前なのに。もしフラれて距離をとられるようなことがあったら、生きていけないかもしれない。


「ただでさえ、高校に入学してから『東城さん』なんて他人行儀な呼び方に変わっちゃったんだよ?もしフラれたら、もう苗字も呼んでもらえなくなるかも」


「まあ、フラれれば今まで通りってわけにはいかないだろうね。でもさ、ずっとこのままは嫌なんでしょ?」


「う、うん!」


 ちゃんとアタシの気持ちをかずくんに伝えて、そこからちゃんとお付き合いをして、恋人っぽいことをたくさんしたい。


 一緒に買い物したり、映画を見に行ったり、食事をしたり、遊園地とか水族館とか、いろんなところにお出かけしたり。


「あれ?今とあんまり変わらないんだ?」


 休みの日はよく買い物に付き合ってくれるし、一緒に散歩したりもする。春休みには卒業記念で一緒に千葉の某遊園地に行ってくれた。もしかして、アタシたちは知らないうちに付き合い始めていたのでは?


「言っとくけど、中間くんを狙ってる女子ってけっこう多いんだからね?中学の頃だってそれなりにモテてたし」


「待って百合香ちゃん!その話、初耳なんだけど!」


 中学の頃、かずくんがモテていた?そんなはずない。授業中以外はずっとかずくんの隣にいたけど、そんな素振りを見せる女子なんて1人もいなかった。


「知らないの?中間くんには鉄壁のバルキリーが張り付いていたから、誰も接触できなかったの」


「鉄壁のバルキリー?そんな人、いたかな?」


 う~んと腕組みをしながら考えても、そんな人は思い浮かばない。かずくんとよく一緒にいる男子は何人かいたけど、常に一緒って人はアタシの記憶の中にはいない。


 悩んでるアタシが面白かったのか、クスクスと笑いながら、百合香はアタシに向かって指を差してきた。なんのことかわからずコテンと首を傾げてしまったのだが、それが面白かったのか、百合香はさらに笑みを深めた。


「さくらのことだよ。本人以外には、さくらの気持ちなんて見え見えだったんだから」


 どうやらアタシが鉄壁のバルキリーだったらしい。その名前、絶対中学2年生のときに付けたでしょ。


 まさか自分がそんな恥ずかしい名前で呼ばれていたことと、アタシの気持ちがみんなに知られていたという事実に、顔が燃えるんじゃないかってくらいに熱くなった。


手元にあったアイスティーをぐっとあおって、手でパタパタと扇いでみても、全然涼しくならない。


「まあ、さくらが相手じゃ、他の女子はあきらめちゃうよね」


「やめてよ。別にアタシ、たいしたことないし」


「たいしたことない人が、入学から1ヶ月そこらで10人以上の男子に告白されるかな~?少しは自分が美少女だって自覚しろよ、嫌味になるからな~」


 美少女かどうかは置いておいて、アタシだってかずくんに振り向いてもらえるように、ファッションの勉強をしたり、美容に気を使ったりしてる。


その成果か、高校に入学してからは何人かの人に告白をされたこともある。1番肝心なかずくんには、可愛いね、とか、綺麗だねって言ってもらったことは1度もないんだけど。


「でも、中学校の頃はそんなこと1回もなかったんだよ?」


「そりゃ、あんだけ中間くんにべったりしてればみんなあきらめるって。でも、同中じゃない人は2人のこと知らないわけじゃん?それに、高校に入ってからは明らかに中間くんがさくらから距離をとってるから、ワンチャンいけるんじゃね?って思ってる人も多いみたいだよ」


「全然ノーチャンだよぉ」


「じゃあさ、中間くんに偽彼氏になってもらうってどう?古からラブコメのテッパンじゃない?」


「詳しく!」


 待ってろかずくん!


 絶対に振り向かせて見せるんだからね!







―――――――――――

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