第5話

帰国したナイトを筆頭とした数十名の騎士達は国に温かく迎えられ、歓喜に沸いた。


王からは勲章を渡すと大層褒められ、愛する国の国民達からは国を守ってくれてありがとうと沢山の感謝の言葉を貰った。





……可笑しい、とナイトの心は声を上げる。


いつもなら嬉しい勲章も、言葉も、なぜか心に響いてこない。


心が、身体が、求めているものが他にあるような気がしてならない。




疲れているのだとナイトは思った。


突然の出動命令、あんなにいた仲間がこれだけ減ったのだから喜べる気分ではないのだろう、と自分を納得させた。



「おかえりなさい」


「姉さん!」


「無事に、よく無事に戻って来てくれて本当に良かったわ……」




青年の姉である二十歳のエリスもまた国で母国の勝利を祈っていた一人だった。


絹のような滑らかなピンク色で小さな花の刺繍が施された膝下のワンピースを着て、優し気なラベンダーカラーの緩やかにカーブが掛かる髪をハーフアップにしたエリスは真珠のように美しい瞳から涙を零し、青年の帰還を喜んだ。


青年もたった一人の家族である姉との再会に笑みを零し、抱きしめるように手を広げた。



ナイトも青年を通してエリスとは面識があった。聖母のように温かく、騎士として生きることを選んだ弟の青年を献身的に支えていた。


とても優しく清楚な“青年の姉”であると理解していたのに、何故か身体の芯が熱く怒りに燃え上がる。



何故エリスは私を見ない?


何故エリスは青年の帰還を喜ぶ?


何故エリスは私以外の男と喋っている?



ナイトの心に煮えだぎるように湧き上がってくる激しい感情に自分自身がついていけなかった。


愛する国に無事に帰還出来たことや青年がまたエリスと再会出来たことを一緒に笑って喜ぶべきだ、と英雄騎士は言う。



だが、ナイトの身体はそれを拒絶した。


国中が勝利に喜ぶ中、手に血豆が出来る程何度も振り下ろしてきた剣の柄に手をかけていた。

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