『最後の既読』

ソコニ

第1話「私のせいじゃない」


離れようと決めたはずなのに、街で偶然すれ違うたびに心が揺れる。


「あの時のままだね」と、彼は相変わらずの優しい笑顔で言った。私の方は変わってしまった。髪を切り、好きだった服のブランドも変え、行きつけのカフェも避けるようになった。でも彼は、まるで時が止まったかのように、三年前と同じ笑顔で私を見つめている。


「元気?」

「うん...」


会話が続かない。昔は何時間でも話せたのに。今は沈黙が重く、息苦しい。


「君のブログ、時々見てるよ。幸せそうでよかった」


その言葉に胸が締め付けられる。幸せなふりをしていただけなのに。強がっていただけなのに。


「私のせいじゃないよね?」思わず口走ってしまった。「私が急に冷たくなったから...別れを切り出したから...」


彼は首を振った。「違うよ。僕たち、ただ違う道を選んだだけだよ」


その優しさが、逆に胸を刺す。


「じゃあ...また」

「うん、また」


背を向けて歩き出す。振り返らない。でも知っている。彼も私も、この「また」が嘘だということを。


二度と交わることのない平行線。それでも、時々思い出す。あの頃の私たちを。そして気付く。人は前に進むために、誰かを傷つけずにはいられないのだと。


それは私のせいじゃない。彼のせいでもない。ただ、そういうものなのだと。


そう思えるようになるまでに、私は三年もの時間を必要とした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

『最後の既読』 ソコニ @mi33x

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ