第13話「ゴブリンとの対峙」

 次の日、俺とスズリとイグニアは、宿で朝食を済ませた後、出発の準備をした。


「よーし、次の街に出発だねー! ユウ、準備はいい!?」

「お、おう、食料もストレージリングに入れたし、なんとかなりそう……って、スズリは元気だな」

「元気出していった方がいいぞ、ユウ。今日は歩いて移動になるんだからな」


 イグニアに肩をポンポンと叩かれた。そうだな、元気を出さないとへばってしまいそうだ。


「分かった。何が起きるか分からないから、スズリもイグニアも、よろしく頼む」


 俺がそう言うと、「おー!」と元気よく返事するスズリとイグニアだった。


「――もう行かれるのですか?」


 そのとき、俺たちに話しかける人がいた。宿屋の受付にいた女性だ。


「あ、はい、次の街に向かおうと思います。お世話になりました」

「いえいえ、こちらこそ。道中気をつけてくださいね、魔物に襲われたなんて物騒なことも聞きますので」

「はい、ありがとうございます。気をつけます」

「よーし、行こうかー! お世話になりましたー!」

「おう、お世話になりました!」


 スズリとイグニアも女性に挨拶をして、俺たちは村を出てノースキャットに向かうことにした。



 * * *



 ノルド村を出てどのくらい経っただろうか。俺たちは北へ向かって歩き続けていた。さすがに歩きっぱなしはしんどいので、途中で休憩を入れながら。たまにすれ違う人なんかもいて、この道は人の往来がそれなりにある道なんだなと知った。


「けっこう歩いてきたけど、まだノースキャットは見えないな……」

「まぁそんなもんだ。着くのは今日の夕方か夜くらいになるだろうよ」

「げ、そんなに歩くのか……なかなかきついな……」

「なんだユウ、もうバテているのか、そんなんじゃこの先やっていけないぞ。あっはっは」


 豪快に笑うイグニアだった。すまんな、俺は身体能力が飛び抜けていいような特殊能力は持ち合わせていないのだ……アルト様に言って強化してもらえないかな……。


「あはは、ユウはもっと体力をつけた方がいいかもねー!」

「お、おう、ていうかスズリはいいよな、妖精の姿になって飛べるんだから」

「私だって飛ぶのに体力使ってるんだからねー! まぁユウよりは体力あると思うけど!」

「そ、そっか、それはすまなかった……体力ないのは俺だけか……」


 ……もう少し体育の授業を真面目に受けておけばよかったかな……って、今更後悔しても遅い。俺は違う世界に来たのだ。ここでなんとか体力をつけていくしかない。


「……ん?」


 笑っていたイグニアの顔が、キッと厳しいものになった。耳がぴくぴくと動いている。


「ん? どうした?」

「……なにかいるみたいだな、ユウ、スズリ、気をつけろ」

「私も聞こえた。なにかいるね……」


 二人には何かが聞こえたらしい。俺にはさっぱり聞こえなかったな……と思っていたそのとき――


「キシャアアアア!」


 右手の草むらから、何かが飛び出してきた。俺の視界にそれが入った瞬間、さっと剣を持って顔の前に持っていった。ガッ! という鈍い音が響いた。

 何者かが棍棒のようなものを俺に振り下ろしてきたのだ。鈍い音の後、俺は後ろに飛び退いた。


「ユウ! 大丈夫か!?」

「あ、ああ、大丈夫、こいつは……」


 目の前にいたのは、明らかに人間ではない、小鬼のような背の低い生き物だった。三人……いや、三匹といったほうがいいのか、三匹とも右手に棍棒のようなものを持っている。


「……出やがったな、ゴブリン!」


 やはりこいつらがゴブリンか、俺の想像通りの見た目をしていた。俺より背が低く、頭に角が生え、口元は牙の間から汚いよだれが出ている。


「三匹いるな、奴らは知能も少しある。まとまってかかられたら面倒だ、一人一匹相手するか!」

「うん、そうしよう! えいっ!」


 イグニアとスズリがそう言った……と思ったら、スズリが左のゴブリンの顔の前を速いスピードで飛んでいる。ぶんぶんと棍棒を振り回すゴブリン。そしてイグニアが飛び出し、右のゴブリンをすごいスピードで捕まえて投げ飛ばした。そのまま追いかける。


 ……残るは、真ん中のゴブリン。俺を見て、じりじりと迫ってくる。


「……俺も役に立たないとな」


 自然と手に力が入る。剣を握りしめて、ゴブリンに向かっていく俺だった。

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書家の異世界転生 〜チートスキル『墨』で敵のスキルを塗り潰せるなんて聞いてないんだが!?〜 りおん @rion96194

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