第二章 アイドル作って洗脳ニャ! ③

🐾3  アイドル作ってみた!? でもネコにグループ行動ができるとは思えませんが…



 船に戻ってからのフォンデュの働きぶりは素晴らしかった。計画を発表すると早速全隊員でオーディションを実施して、ビジュアル要員と歌・ダンス要員に分けてメンバーを選抜。その一方で、テレビ局に売り込むため架空の事務所を設立、自ら有能なエージェントとしてコネを作るのにも抜かりがない。一方でアイドルグループになりすますための曲作り・衣装制作・ダンスの振付を一人でこなし、あっという間に宇宙人による超絶最強のアイドルグループ〝XENON(ゼノン)〟が誕生した。だが、楽しんでいるのはフォンデュだけかもしれない。


「もうムリ。体じゅう痛いんですけど」

「プリエ隊員はまだ踊れてるからいいよ。俺にあの動きができると思うか?」

 ビジュアルも歌・ダンスも今ひとつなのにバク宙ができるという理由だけでメンバーに入れられたピケはプリエに愚痴をこぼしまくっている。汗だくのピケと対照的に涼しい顔で振付をこなしているのはダンス要員に抜擢された双子姉妹のアロンジェとアロンディ。双子だけにシンクロした動きが決まってかっこいい。そのほか女性隊員ではプリエとパンシェが歌唱力を買われて選ばれ、さらにビジュアル要員として女性11名、男性2名が選抜されて総勢16名!

 

「いよいよデビュー!」

 フォンデュがメンバーに告げる。テレビ局のお偉いさんに取り入って出演権を手に入れたのは、普通は新人など出られない特番の「ソング&ダンスの日 〜エンタメのチカラ〜」。しかも5時間生放送である。だが、フォンデュは自信満々だった。


(本当にうまくいくのだろうか? フォンデュに全部任せて来たが・・・これが失敗したら、もう司令官に合わせる顔がない。母星くにには帰れないぞ)

 タンデュはフォンデュがプロデュースしたアイドルグループのどこがいいのか、さっぱり分からなかった。これがこの惑星でウケるのかも全く読めない。だがもう後には引けない。フォンデュの判断に賭けるしかないのだ。

 番組が始まると次から次とさまざまなアイドルたちが出てくる。妙にドスの効いたラップで歌い踊るチームや、女の子のように色白でメイクもしてぷるんとした唇の男性アイドルグループ、キレッキレのダンスを踊りながら息を切らすことなく歌う歌手、舌ったらずな幼い声で話しながら歌ではデスボイスを披露する女の子、紗幕しゃまくの後ろで顔を隠しシルエットしか見せない歌手など、多種多様なミュージシャンが登場する。

(みんなけっこう凄いじゃないか。これでうちのメンバー大丈夫なのか?)

 タンデュは不安が募るばかりだった。そしていよいよ宇宙人のアイドル登場である。

「さあ、続いては期待の超新人〝XENON〟の皆さんです。曲は〝 Red feather(赤い羽)〟」

 司会に紹介され、〝XENON〟のメンバーのパフォーマンスが始まった。ピンクエナメルのビスチェとグローブで気の強い女性のイメージだが、一方でオフ白のふんわりトップスとフレアのレイヤースカート、さらに白地に小さなピンクのリボンまでついているニーハイのソックスで可愛らしさを出してギャップ萌えを演出。甘い声で歌い始めたかと思うと間奏ではこれでもかのキレッキレのシンクロダンス。さらなるギャップで視聴者のハートはつかんだようである。極め付けはピケのバク宙連続。歌の途中からSNSでコメントの嵐、そして〝XENON〟や〝 Red feather〟のワードがトレンド入りする。タンデュは地球人の反応のものすごさに圧倒されていた。

(こんなものじゃないから。ここからが・・・)

 フォンデュが瞳孔を見開きニヤリとした瞬間、思わぬ事件が起こった。


「アロンジェ、何してるの!」

 プリエが悲鳴のように声をあげた。スタジオの照明の灯りに何か分からないが虫が飛んできたのだが、それに双子のアロンジェが反応したのである。アロンジェは突然踊りをやめ、虫を追いかけ始めた。

「ダメよ!まだ歌の途中なのに」

 プリエが必死でアロンジェに戻るようジェスチャーするがアロンジェは全くこちらを見ないので埒があかない。そのうちアロンディまでが急に踊りをやめたかと思うと、スタジオADが持っているストップウォッチの紐にじゃれ始めた。

(ダメよ。戻って! これじゃ台無しだわ!)

 頼みの綱のピケのバク宙も、3回ほど回ったあと疲れたのか床に座りこんでしまった。ほかのメンバーも次々と遊んだり寝そべったり好きなことを始めている。何人かはちゃんと歌と踊りをこなしているメンバーもいるが、もう収集がつかない。マイペースな〝ネコ〟の習性がここでも仇になったようである。

 フォンデュは呆然と立ちすくんでしまった。

 絶対上手く行くはずだったのに。地球人の心を掴んでマインド・コントロールするはずだったのに。何がダメだった? どこで間違えた? フォンデュは頭をぐるぐるさせて考え込んでいた。

 だがそれ以上に頭を悩ませていたのはタンデュである。顔は青ざめ冷や汗が止まらない。

まずい! ヤバい! どうする? どうする? どうしたら司令官をごまかせる?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る