第三章 怒られたニャ! ①

🐾1 母星のカワイイ宇宙人たちが先発隊のモフモフ生活に気づいて、司令官に言っちゃいました!



 本部司令官のザンレールはずっとイライラしていた。あれからタンデュからの報告がないのだ。

「まったく、侵攻作戦はどうなっているんだ!」

 ザンレールはドン!と机を叩いた。


「やっぱり騒がしいですか?申し訳ありません。司令官どの」

司令官室付きの武官が思わずザンレールの方を向いて恐縮した様子を向けたので、ザンレールは戸惑った。

「ん? あ、いや、すまん。驚かせてしまったか?」

「いいえ、こうにぎやかでは司令官どのも苛立いらだちますでしょう。今日だけですからご辛抱ください」

「賑やか?」

「予科練生たちがうるさくしているので、お邪魔なのではありませんか?」

「ああ〜、あ、まぁそうだな。確かに賑やかだが、やむをえまい。すまん、つい机を叩いたりして。大丈夫だ、気にしないでくれ」

 そうだった、今日は士官学校予科練習生(通称予科練生)たちの職場見学の日だった。ザンレールは今朝司令官室に挨拶に来た若者たちの(というよりほぼ子供たちのような)顔を思い出した。20名ほどの予科練生たちは皆一様にワクワクした様子で司令官室から見えるコントロールセンターを眺めていたが、いつか自分が勤務する姿を思い描いていたのだろう。

「今みんなあちらのコントロールセンターにおりまして、あそこではさまざまな遠征先の様子をリアルタイムで見る事ができる監視システムがありますから、侵攻部門に勤務を希望しているものは興味津々でしょうねぇ。賑やかな声が聞こえるのは彼らがついついはしゃいでいるのでしょう」 

 武官がにっこりとしながら報告する。この司令官室からは窓越しにコントロールセンターが見え、見学の予科練生たちがモニターを食い入るように見たり、担当官に熱心に質問したりしている様子が見える。

「少しはしゃぎすぎですかね。注意してまいりましょうか?」

「いやいや、かまわんよ。我々もあんな頃があったな。懐かしいよ。それに私が苛立ったのはあれだ。太陽系銀河の惑星侵攻作戦。あれの進捗しんちょく状況の報告がないからなのだ」

「ああ、タンデュ副司令官が隊長を務めている」

 武官はタンデュのことを見知っていたので、二人の話題は自然と太陽系銀河の惑星侵攻作戦のことに移って行った。やがて話は惑星侵略戦争の防衛軍の活躍に移り、二人がかつて経験した惑星間戦争のことなど昔話に花を咲かせる。


 その頃、コントロールセンターを出たすぐの通路では、見学が終わり休憩時間になった予科練生たちがおしゃべりをしていた。

「ねえねえねえ、あのモニターってどこでも見られちゃうのかな。あたし一番最近の太陽系のやつ見てみたいなぁ」

「そんなのさっきあったっけ?」

「ううん。あたしたちに見せてくれたのはM51銀河のやつ。侵略戦争の防衛に成功して逆にうちらの管理下になった惑星のモニター」

「ああ。なんだっけ、第一連隊?が活躍したっていう?」

「そうそう。あれじゃなくってさ。いま現在進行中じゃん、太陽系は。どんなんなのかなぁ、今」

 話しているのは、士官学校予科練習生のなかでも好奇心旺盛な子たちらしい。何を見てももの珍しく、一人が興味を持ったのはコントロールセンターの中にある監視システムであった。

「私、士官学校を卒業して入隊したら、惑星侵攻軍に入りたいのよね。今まさに作戦進行している天の川銀河惑星侵攻の様子が見られるのよ? こんなチャンスなくない?」

「確かにー。私も見てみたい」

「でしょ、でしょ? 行ってみる?」

「えーでも勝手に行ったら教官に叱られない?」

「教官怖いからなぁ・・・あ、待って。教官さっきどっか行っちゃったような・・・」

「休憩行ったんじゃない?」

「チャンス! 今のうちに行っちゃお?」

 二人は意を決してコントロールセンターに入って行った。騒々しい予科練生たちの相手が終わってセンターの職員たちはお疲れ気味のようである。ほっとしたのか、注意散漫になっている職員の脇をそーっと通って二人はモニターの前に来た。しかも担当の職員は休憩に行ったのかモニターの前はガラ空きになっている。予科練生の一人はどうやら宇宙地理学が得意らしく、太陽系銀河の侵攻対象となっている惑星の座標を難なく突きとめてしまった。座標が合った印にチャイムが鳴る。そこに映っていたのは・・・


「あれ、なに?どういうこと!?」

 監視システムはリアルタイムで派遣先の様子をモニタリングしているのだが、その映像はセキュリティ上普段は見えないようになっている。だが二人が座標を合わせた時、たまたま定時のチェック時間になっていた。ディスプレイに映し出されたのは、地球侵攻のために派遣された先発隊のメンバーが〝ネコ〟になりすましてニンゲンにもふもふされのんびりねこライフを送っている姿だった。

「先輩隊員たち? あの格好はなに?それになんであんなにデレっとしているの?」

「信じられない!あれってサボっているってことでしょう?」

「こんなの許せないわ。司令官どのにお知らせしなくちゃ!」


「あんなの放っといていいんですか?」

 突然入って来た女子たちがすごい剣幕でまくし立てるのにザンレールも武官も固まってしまった。そのパワーに押されながらも、ザンレールはかろうじて声を出した。

「いったい何のことかね?」

「太陽系銀河侵攻作戦の惑星です! 先発隊の方々はだらけきってます!」

「なんかもふもふした毛だらけになってゴロゴロしてます。あれって作戦なんですか?」

 予科練生の二人は真剣なのだが、使う言葉が可笑おかしくて緊迫感が伝わらない。

「もふもふ?ゴロゴロ? どういうことかね? いや、いい。この目で見た方が早い!」

 言い放つとザンレールは司令官長室を出てコントロールセンターに向かった。

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