第5話 極道の家

「極道の家に生まれた人間が、簡単に人を信じちゃいけませんぜ」


 若頭の堀田さんが、私にいつも言ってくれた言葉。

 うちの組は、地元では名の通った任侠の一家。

 最近は外国人のマフィアや新興勢力に押されて、古い任侠道を重んじる極道は少なくなっていた。

 急成長した菊田会は、そんな任侠道を重んじるうちのやり方に真っ向から挑んでくるような勢いをもっていた。

 菊田会は、金の為ならなんでもやる悪の集まり、仁義の通じる相手ではない。

 それでも争いを避け、穏便に事を進めていた小郡組を、いよいよ潰そうと動いた時は早かった。

 すっかり弱体化していた小郡組なんて、組員が一人づつ消されて行くと、もう組長と若頭の牙城まではいくらも時間がかからなかった。

 外国マフィアと関係の深い菊田会。

 そのやり口も有名なほどの残虐性。

 私も一度捕まり、売られる手前で逃げてきたほどだ。

 簡単に死なせてくれるほど、菊田会は甘くない。

 だから、死のうと思ったのに。

 生きていれば、こうして菊田会の残虐性から逃げ続けなければならない。

 私はそれをよく知っているのだから。


 それでも、聡子ちゃんそっくりな弘美さんを、私は信じたいと思ってしまった。

 私にはまだ、明日があるんだって、心のどこかで思いたかった。


 走って逃げてきたから、私の呼吸は激しく乱れている。

 着の身着のまま出てきてしまったけど、これからどうしよう。

 もう、本当に私、行く所ない。


 家が極道、子供の頃から友達だって出来ない。

 唯一友達になってくれたのが聡子ちゃんだった。

 小学4年の新学期、彼女は転校してきた。

 周りから、私の家が極道だって聞いていたはずなのに、私に話しかけてくれた。

 家にも遊びに来てくれた。

 物怖じすることなく、聡子ちゃんはうちの組員ともすぐに仲良くなった。

 特に若頭の堀田さんは、聡子ちゃんをとても気に入っていたようだ。

 あんな怖い堀田さんが、小四の女児をかわいがるなんて、最初は少しびっくりした。

 堀田さんは、なにかに付けて「お嬢を頼むな」と声をかけていた。

 頼むって・・・・お友達なんだから。それじゃあまるでお婿さんだよ。

 今だって、聡子ちゃんが生きていれば、きっと私を助けてくれたんだろうな。

 弘美さんみたいに、私を家に入れてくれて、一緒にご飯食べて、お風呂に入って、同じベッドで寝て・・・・

 こんな時だと言うのに、私は何を考えているんだ。

 

 ・・・・あれ? 弘美さんが本当の姉妹でないとしたら、聡子ちゃんが病気で死んだってあれは・・本当なんだろうか。


 もしかしたら、弘美さんの言う事が全部嘘なら、聡子ちゃんが生きている可能性だって普通にあるはず。

 ・・・・仮にそうだったとしても、今の私には関係の無い話なんだろうな。居場所だって調べようが無い訳だし。

 そして、私の目の前には、私の運命を象徴するような悪しき男達が行く手を阻んだ。

 黒いスーツに黒いシャツ、明らかに極道の男と、上下スウェットに金髪の男。菊田会だ。


「ったく、手間かけさせんな。連れてけ」


 私は抵抗しなかった。

 この男達は、街中だろうが人前だろうが、平気で人を殺すような連中だ。

 ここでの抵抗は無意味だ。

 これだけ早く私を見つけたと言う事は、弘美さんが手を回したって事だろう。

 出来ればもう少し、夢を見ていたかったな。

 こんな時でも、春寒の風は冷たくて気持ち良い。

 そんな夜風に誘われるように、弘美さんが現れた。

 真打ち登場って感じかしら。

 

 でも、弘美さんは、私が想像していたのとは少し違う言葉を口にしたのだった。

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