第21話 たぶんもっと好きになる
お屋敷に帰って机に向かう。今日の授業でノートに書き写すだけで上の空になっていた。ちゃんと復習しておこう・・・
そう思って復習を始めたけれど、時折意識が葵のことを考えてしまうから、集中とは程遠いことになった。
きっと葵は今まで通り私に接してくれる。
私が手を繋ごうとなんて今までしたことなんてないのに、葵はなんとも言わなかった。あんなこと(キス)をしたというのに、避けられなかったこと、私から離れて行かないってことに安心している。
それは、私のことを許しているからなのか?私がそんなことをしても意識しないくらいの、小さな子供にチューされたくらいの感覚で、そういう対象にもなっていないのか?知りたいと思った。
もっと試したくなる。意識にのぼってくれればいいのに、もしくは振り解かれるほど葵が拒否してくれれば私も納得できるのに。
葵は今までだって大体のことは断らなかった。でも、流石に許せないラインがあるだろうから…
嫌だというなら、それも見たことのない葵を見られるチャンスになるんじゃないか?なんて考えが浮かぶ。嫌われるのは怖いのに、葵が私をどこまで拒否しないのか興味が湧いてしまう。
キスしたっていうのに嫌ったり、怒ったりされないなら、葵はどこまで許してくれるんだろう。葵に触れたいし、居られるならそばにいたいし、葵の声を聞いていたいし。少しくらい意識してほしい。
おかしい。好きって思いは届かなかったのに、前より私は葵のことを考えてしまう。
例えばこんなことをしたら?なんて想像をいろいろする。葵はどう受け止めるのか、机の上、開いたまま進んでいないノートを眺めながら勝手な想像をして口角が上がっていた。
次の日、学校に向かう車の中。葵のマンションの前まであっという間に着く。窓から近づいていく葵の立っている場所を見つめる。
いつもだったら、目が合いそうな距離に近づいたら窓から離れるのに、今日は葵を見たままでいた。私に気づいた葵は、窓越しに目が合うと小さく手を振ってくれる。
それが普段の葵の行動だろうのに、私は今まで自分のせいでよく知らないできた。
「おはよう」
そう言って微笑む葵は、いつも通り。
よかった気が変わってないなら。最初にそう思った。
「おはよう」
そう返す。
「麗華、ちょっとこっち見すぎだよ」
車が出発してからも、ずっと視線を外さずに見続けていたことに気づく。
気付いていなかった。
「ごめん」
「うん」
そう言ったのに、私は体の向きは正面というよりは葵の方に向いていて、視界に葵を捉えている。
正面を向く葵は、時々こちらを見て困り顔をした。そんな表情を見ていると、(かわいいよ)なんて言いたくなる。そんな言葉はさすがに言えない。
学校に着いて、車を降りる。
「ねえ、葵?」
呼びかけると、「ん?」と言って葵がこちらを向いた。
「呼んだだけ…」
そう言うと「え?」と意味が分からないという様な顔を葵がした。
その反応に私は、笑顔になる。なんだか、かまいたくてしょうがない気分になったから、そんなことをしてしまった。
「うそうそ、お昼一緒に食べてもいい?」
「ええと。良いと思うんだけど、一緒にお弁当食べてるクラスメイトに話してみるね」
葵は、少し戸惑った表情を見せてそう言った。
お昼を一緒に食べようなんて、誘うなんてこともなかったから、そうなるだろうとは思った。でも、葵のその戸惑いさえ楽しいと、心の中で思っている。
「わかった、じゃあまた後で…葵」
「・・・うん、後で」
葵が私のことを推し量るように見るから、私は笑顔で見つめ返して分かれた。
葵と分かれて、自分の教室に入る。鼻歌でも歌いそうな気分だ、歌わないけれど。
葵の戸惑いや困惑は私に向けられている。それがうれしい。おじい様のもの言いにすら、平気な顔をするのにだ。
昨日とは大違いに、授業の内容に集中出来ている自分がいた。
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