葵(6)

バスの中、私の隣で無防備に眠っている。そんな麗華を見るのは幼いころ以来な気がする。再会してから数年が経ったけれど、どこか距離があって、気を許されたという気がしなかった。もっとこういう風に、素の麗華を見せてくれていたらよかったのに……いや、素を見せてくれてたら何だというんだろう。



麗華が手を引いて、バス停からの短い帰り道一緒に歩いた。

麗華と湖の公園で会った土曜日の朝から、まだ3日。

正直、麗華のことを考えていたから、私の気は紛れていた。慰めてもらうよりもよっぽど、失恋したことを考える暇が無くなっていた。

春美さんに振られることは、薄々分かっていたからなのもあるんだろうけれど、春美さんのことを横に置いておいてしまうくらいに麗華のことを考えていた。

だって、麗華がキスするなんて思うわけがない。予想外過ぎる出来事だったから。


これが私にとって喜べるような事だったら良かったのに……

私は今まで通り大切な従姉妹としているだけ、私はそういう関係でいい。

私は、春美さんが好きだと知ったんだから、私のことを好きでいても、しょうがないってことは、よくよく分かっているはずだ。


それなのに、麗華はどうしてだろうか。ほんの数分の私の家までの帰り道、私を送って行くと言った。それは良くない傾向だと思った。

今までそんなことすることなんてなかった麗華が、私の手を取って帰り道を歩く。

こんなタイミングで、麗華の気持ちを知るべきではなかった。

麗華の気持ちは蔑ろにしたくはないけれど、答えることはできない。

麗華は大切だが、恋愛をするならもっと青春の恋としてふさわしい相手を選ぶべきだ。


あの時学校で、麗華が先に帰ってと言った通り、素直に一人で帰らなければいけなかったのかもしれない。

私が本当にズルいのは、麗華には今まで通りただ従姉妹として側にいてほしいという建前を自分に言い聞かせながら、帰り道に手を引いて帰ってくれたことを、ひどく胸の内では喜んでいることだ。

よくない。ダメだよ。私は自分を律するべきだ。じゃないと、春美さんと同じことを私は麗華にしてしまうような気がする。

こんなことでいると麗華を傷つける。

春美さんがお母さんの代わりに私にキスしたように、私は春美さんの代わりに麗華で埋め合わせようとしているんじゃないだろうか。

春美さんが好きでも報われない。そのせいで、それを麗華で埋めてしまいたいと思ってしまう自分がいる。慰めてほしいと思ったのも結局そういうことだったんじゃないか。

春美さんが好きな気持ちを、麗華で埋めてはいけない。私のズルくて弱い心は、麗華を利用しようとしている。


最低だ。自分がこんなに最低な人間なのだと今まで気が付かなかった。

分かっていながら、短い帰り道で麗華が繋いだ手を離すことができなかった。

私は、自分を止められるだろうか・・・


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