第23話 見えない不安
帰り着いて自室の扉を閉めると、急いで帰ったせいで上がっていた荒い息を整える。
突走った行動をしてしまったと反省はしている。あの時は、どうせ大したとした反応は返されないと予想していたのに、目があった葵の反応は違っていた。私のことを何とも思っていないとは思えない反応に期待しそうになった。瞳が揺れて動揺を感じたし、耳のあたりが赤くなってた。
――首を横に振る。葵の反応は予想外のことに驚いただけで、私が期待しても期待した先に臨む結果がるわけじゃない。
冷静に振り返ってそう思う。
そう、ちゃんと私はそう理解している・・・勘違いしたりしない!
葵が好きという感情を私に向けてくれているなんていうのは、妄想の中だけで許されることで。
嫌われてはいない、色々許してはくれているというだけで、期待はしないでいようと自分に言い聞かせる。葵の反応が予想外すぎて、焦った。
私に対して好きという感情がないのはわかっている、わかっている上で、赤くなった葵の反応を思い出して嬉しくなる。
私のしたことに葵が赤くなったんだ……ただその事実だけでも浸っておきたい。
少しくらいの可能性縋って自分の気持ちを伝えていくことくらい、したっていいよね……葵に拒絶されるまで。そこまではいきたくないけど。
自分の中に燻ぶる感情がこんなんじゃ足りないと言ってくる、厄介だ。
この厄介な感情はどうしたらいいんだろう。もっと単純で簡単ならよかったのに……
ああ、葵は私を好きじゃないっていうのに、あんな反応を見せるのは……反則だなぁと思う。
あんなことをする自分が悪いのは分かっているけれど…ベッドに寝転がって、少しの間落ち着きなく体を右に左にゴロゴロとしていた。心を落ち着けようと目を閉じていると、感覚が思い出されて空中に手を伸ばしていた。ゆっくりと瞼の内に浮かんだ葵の唇をなぞると、あの時見つめた瞳が浮かんでくる。
「……しちゃうよ」
あの時飛び出していなかったら、衝動的にまた葵にキスしていたかもしれない。
だって前のキスを、葵が簡単に許すから……
心を落ち着けようと思ったはずなのに、余計に悶々と考え始めて落ち着けそうにない。
あんなことを言って飛び出してしまったけれど、葵はどうしているんだろう。ベッド脇に置いたスマホを手に取る。
葵からの連絡はない。そうだとは思った。私のあんな行動に、困っているだろうか?それとも気にもしていない?気になっている?どうだろう……
画面に電話番号を表示させたまましばらく悩んで、画面が暗くなっては点け暗くなっては点けを繰り返す。
そんな落ち着きのない状態で、結局電話はできないまま時間は経って、夕食もお風呂も終えた。
そして自室でまたスマホを抱えたままベッドに横になっている。
私が電話をかけたら葵は絶対出てくれるんだろう。それはなんとなくわかる。突拍子もない行動には出るくせに、こういう時行動を起こすのは苦手だ。
それでも意を決して電話した。
「……もしもし、麗華?」
静かで落ち着いた葵の声が届く。何でそんなに緊張していたんだろう。そう思わせる声だった。
電話越しになら余計なことをしないで済むから大丈夫、そんな考えすら浮かんだ。
「うん」
自分で電話をかけると決めたのに、私は返事をしただけで固まってしまった。
電話越しに話す機会なんてそう言えばほとんどなかった。
スマホ越しの葵の声を耳元に受けるだけで、ドキドキする。余計なことを言いたくないと思うと、言葉を探してしまう。
「……」
「……」
私から掛けたくせに何も言えないでいると、葵も何を言っていいのか悩んでいるのか沈黙している。
電話で無言はまずいよね……
それなのに今浮かんでくるのは、私は今葵を困らせてて、その間私のことを考えているんだなんてこと。
困らせているっていうのに、私のことを考えていてくれるということに、少しうれしいとさえ思ってしまっている。
「……麗華?」
もう一度問いかけられて、さすがにハッとする。
「葵…、葵は……ううん。ねぇ、今何してるの?」
日和った。勢いで葵が私のキスなんて行動をどう思ったのか聞き直せるかと思ったけれど……今はダメだと思った。そんなことを聞くのは、やっぱり葵が目の前にいたほうがいい。
だから、私も葵も今でなくてもいいような、何でそんなこと話しているんだろうなんてこと、たわいもない話のキャッチボールをした。
葵は、少しも私との会話を面倒そうにだとか、適当な相槌で流すだとかしなくて、私のしたことに追及も咎めるようなことも言わない。
そのせいなのかおじい様と話している時の葵の顔が浮かんで、なんだか心が苦しくなった。
今葵はそんな顔で、私と会話している気がした。私は、よそ行きの葵と話しているのかもしれない。私の存在が葵にとってどうなのか電話越しの表情の見えない会話に不安に思った。
そのせいで、会話を続けることができなくなった。
「葵……。じゃあ、……もう切るね」
「・・・そう。……わかった」
「また、明日……」
「うん。また、明日。おやすみ、麗華」
電話を切った後に、なんだかよくない寂しさが残った。
顔が見えないってことに不安になった。
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