第30話微笑まない絵

ホテルに帰ってくると、無駄に疲れたと落ち込む。


「変な服装の男らだったな」


母は特になにも気にせずにホテルのチェアへ沈む。


「警察官。ずっと昔から地球に居る。治安を統括する組織」


エマの知識から得られることは、母にとって少し琴線に触れる。


どうやらバトル出来ると勘違いしているらしい。


んなバカな。


ゲームじゃないんだから、バトル出来ないよ。


「母さん?警察官に会っても戦えないの。寧ろ戦いとは一番遠く離れた存在かもしれないね」


警察官は安易に暴力をしてはいけないからね。


地球の法を順守してほしい。


特に無為の一般人や何もしてない人には縁遠い。


ナターシャらはほのぼのと過ごす。


やがて、電話を受けて、ドアマン的な人がにこりと笑いながらお電話ですと、言われる。


あー、多分フラン◎からの電話か、それとも外交官さんとかの類かな。


でも、別に私達は誰かに指摘したわけではないし、相談したわけでもない。


なにもしてない私たちになにかできるわけもないので、エマも無視している。


エマは地球の法律をすでに把握して、応用出来るように待ち構えると思う。


そういう、賢いゲームみたいな事が大好きだからね。


3人は電話に対応せずにマイペースに過ごした。


ナターシャとて、ゆっくりしたい。


たまたま解決しそうな不思議事件を目撃してしまうというトラップにハマったけど、今は妹のゲームがしたい。


そんな時間が更に経過し、3日後、テレビのニュースに驚く内容があった。


私達について。


どうやら、だれかがリークしたらしく、私たちがなにか情報を持っている可能性について、というもの。


知っているけど、こういう不意打ちっていうのではないのかな。


こんなことしたら、余計に私達は意固地になるのだよ。


ただでさえ容姿で目立っているから極力人目に晒されるのは嫌だ。


美人とか、可愛いと呼ばれる見た目なのは分かっているけど、ずっと見られてるし。


「でも、結局私達が犯人にされるかもしれないから手の貸ようがない」


うーんと唸ると、ホテルに外交官が来ているとホテルマンが言いに来る。


電話に出ないから体を張ってきたらしい。


私だって意地悪したいわけじゃないので、エマと母とナターシャで外交官さんと会う事にした。


私達の部屋ではなく、別室を使う。


自分の家に招くのは気恥ずかしいという理由。


となると、別の部屋の方がお互い白い状態で話し合えるんじゃないかな。


中に既に居た外交官と思われる2人。


「こんにちは。ルビーさん」


「こんちは。外交官さん達」


「私達は副大統領補佐官の秘書をしております」


ん?


大統領直属の秘書が望ましかったのだが……。


やはり高望みだったかな。


でも、交渉の基本って強めに言うのが正解だってエマも言ってたしね。


補佐官の秘書ってことは肩書きを持つ人の人数的に、信頼はできるのか微妙。


私は見つめて話を進める。


「モナ◎ザについて、有力な情報をお持ちだとか」


と、いきなり言われて3人は言葉を発さずに黙る。


それから5秒、10秒と経つ。


外交官も兼任している人達は私達が情報を喋るつもりがないことを察して、懐から紙を出す。


「ここに、首相のサインがあります」


「地球の責任者の分は」


しっとりした音程で問う。


たった一人、それも国のトップが書いただけの紙切れサインになんの保証があるのか。


私達は地球人ではないから、この星の保証など無意味なのだ。


命を狙われているわけでもない。


それに、彼らが一言でもこんなサインなど知らないと言えば地球の人間達の瞳に晒されるのは異星人のルビー一家。


「少々時間が掛かりまして」


「では、お帰りください」


地球の責任者のサインがないと、私達は身の潔白を晴らすことができない。


何度も言うけど、罪を被せられるのは簡単。


「私達は外見がこうなので、狙われやすいんです」


「わかり、ました」


宇宙じゃリスクを負う事などいつでも起こり得る。


母や私達の外見が珍しいからと襲う敵船を、父達が撃ち落とす事だってある。


地球も例外的な扱いは出来ない。


「また、お邪魔させていただく」


外交官達が現れたのは10日後。


随分と間が開いたなと見学していると、人が増えていた。


どれほど増えても話す内容は変化しないのだが。


もしかして、何か話し合いでも起きたのかな。


首を傾げ、赤い髪をさらりとナターシャは横に流す。


「こんにちは。あなた方のお噂はかねがね」


「いえ、それはありえないのでは?媒体で撮影出来ないですし」


「まあ、そうですが、噂は耳に入っていますので」


「私達はあなた方と取引をしたい」


「私達と」


予め予想したいので驚きは特にない。


【確約をする。◎ナリザを解決する際に起こることを罪に問わない】


ぺらりと取り出されたそれに、エマが目を向ける。


「この文章は他国に行ったら捕まる」


すかさず裏や、表をじっくり見た彼女がダメ出しする。


外交官の男達は困ったような顔をして、少し待つようにと伝えてきて、部屋の外へ出る。


私じゃ見逃している言い回しだったのだろう。


元地球人だからといって、難しい言葉を全て理解しているわけじゃないからなぁ。


遠い目になる。


地球の言い回しって結構分かりにくくして、契約をさせることがあると聞いたことがあるけど、本当にしてくるとは。


向こうには他意がないのかもしれないが、こっちは現在異星人なのである。


15分経過して戻ってきた彼ら。


勿論、私達はハイスペ種族なので話していることは筒抜けだった。


しかし、言い合いは悪いことを言ってなかったので、イメージはそこまで損なわれてはおらず、3人の家族は見直していた。

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