第29話親子は美術館へ行く
有名かどうかなど、私にはさっぱり。
「この美術館は地球歴、開業1793年。所蔵されている美術品は38万点に及ぶ、らしい」
エマがすらりと説明してくれる。
今調べてくれたよう。
「三大美術品、モナリ◎、ニケ、ミロと言われている。すごくそこだけは混む」
「混むのかー、見られないかも」
「我らの姿を見て、道を開けてくれるかもしれんぞ」
「そうだね」
母の言葉は自惚などではなく、本当にそういうことが起こるのだ。
美術館を回っている間も、美術品よりも私達の姿を見る時間の方が、長い人が多い。
「見つけた」
エマが美術館の案内パンフレットを元にナビをして、3人は絵を眺めながら漸く、目的にたどり着く。
隠すことも難しいくらい有名な絵で、少しの時間でも空白が起こると、いろんな人達が見せろと言うのだろう。
「おお、見える。今の私でもこの距離だろうと細部まで見える」
このスペックをもつ宇宙人の私の視界は微笑まないモナリ◎をしっかり捉えた。
「やっぱ私達の方が見られてる」
客達の目が3人に集中している。
確かにこの美術館の中で一番、今の所珍しいものだろう。
「本当に微笑んで無いね?」
「ん。これは、アレだ」
「うーむ、そうだな」
3人はある一つの事実をもって、絵から離れた。
「エネルギーが発されている」
エマが分析したようで、結論を告げる。
絵からは、一定の淡いオーラが見えた。
「私、この手の話し、知ってる。チェンジリング、取り替え子って言われている現象だよ。日本じゃ神隠しと言われている系統でもある」
「妖精のいたずら?」
「そうそう」
エマに頷く。
絵は入れ替えられている。
入れ替えられているにしても、本物とのパスは繋がっている。
どこにつながっているのかと辿れば、どう見ても美術館の外にある。
困ったなぁ。
仮に私達が取り返しても、泥棒扱いを受けるかも知れない。
「なにもなかったことにしようかな」
厄介な扱いを進んで行きたいとは思えない。
「残りの観光して帰ろう」
「あぁ」
と、3人は美術館を去る。
そこからビュイーンと自転車に乗って空を飛ぶ。
やはり飛ぶのは楽しい。
「姉、あそこ、食べたい」
「長細い硬いパンね、オーケーわかった」
母も楽しそうに自転車に乗り、大はしゃぎしている。
パン屋の前に行くと、周りから「オーウ、マジョーノタッキュービーン!」と、も盛り上がった。
今の降り方がそっくりだったらしい。
そう言われたら、確かに再現度高かったかもね。
パン屋でパンを買って3人で食べ、なんとか通りをポクポク歩く。
「CMに出てきそう」
オシャレな道に気分も上がる。
フラン◎の街並みをぶらぶらりと歩いていると、警察がこちらにゾロっとやってきた。
私達は特に戦闘態勢にならずに待つ。
仮に彼らが襲ってきてもこちらが負ける理由がなくて、余裕のある対応というもの。
「すみません、ルビー一家の皆様ですね」
「さて、分かりませんね。コスプレというものかもしれませんよ」
私は何が目的かわからないままそうだと言えるわけもなく、惚ける。
「いえっ、その、我らに攻撃の意思はありません」
解答に意図的なものを感じた警察官の男が慌てる。
当然だろう。
宇宙人に敵対イコール、地球が壊される、の可能性を日々言い聞かせているらしい。
政治家とかが。
「なにか御用ですか」
「その、美術館での発言について聞きたいことが」
「別になにか不穏なこととか言ってませんよ」
「いえ、そう言うものではなく」
彼らは声を潜めて、チェンジリングのことですと告げられる。
どうやら誰か聞いていたことをチクったらしい。
宇宙人に恨まれるという可能性を考えなかったのだろうか?
命知らずな勇者もいたものだ。
私だったら、宇宙人と揉めるかも知れない内容を、誰かに漏らしたりしないからこそ、そういう人もいるんだなと勉強になった。
「それがどうしたんですか?」
「いえ、その、詳しく聞きたいと」
「ええっと、でもー、ほら、言ったら私たちが初めから盗んだとか言われるかもしれないですし、なんの保証もない状態で話すのはフェアじゃないですよ」
ありのまま話した後、見つかったらそれで済むかもしれないが、それで済まないかも。
犯人が妖精ならば犯人は居ないもの同然なんだもん。
「もし、お話があるのでしたら、フラン◎の大統領、地球の宇宙人大使のサインをもらわねば対応出来ません。犯人にされてしまいかねないんですよねぇ。ねえ?」
と宇宙人なりの圧を与える。
それに息を詰まらせる警察官。
やはり、そこはちゃんと犯人扱いされないことを前提に事にあたらせてもらわないとね?
事件が解決したら、お前らが犯人だー、ってされる。
妖精が犯人ならば、妖精は捕まえられない。
つまり、私たちが最有力の犯人にされちゃう。
「あとで好きに言えるような今の状態じゃ、なーんにも伝えらんないです」
「それはですね」
「取り敢えず共に来てもらえないですか」
という警官達に無理だと再度言いつけて、私達は目の前から消える。
ヒュンッと。
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