第4話 ワイバーンの討伐

「とりあえず、手紙を渡すか」


 私は手紙を持って人の列に並ぶ。人の数が多いから受付と話をするだけでも時間がかかる。二〇分ほど待った後、ようやく私の番がきた。


「あら。まだ若いわね。何しに来たの?」


 受付台の奥で椅子に座っている美人巨乳の方が話しかけてきた。


「手紙を届けに来ました」

「確かに受け取りました。あて先は、ウルフィリアギルド。ということはギルドマスター宛てですね。後で渡しておきます」


 私は頭を下げ、受付をあとにする。人が少なくなるまで壁際に貼られているFランクの依頼を見ていた。


「Fランクの依頼で単価が一番高いのは、薬草採取か。まあ、雑用をやるよりましだよな」


 私はルークス中銀貨一枚を稼げる薬草採取の依頼書を手に取り、人数が減った受付に向かう。

 依頼書とギルドカードを同時に受付に見せた。


「依頼書とギルドカードを確認しました。では、お気をつけて」


 受付の女性は依頼書とギルドカードを記録した。依頼書とギルドカード、加えて薬草を入れる用の麻袋を手渡してくる。


 ――お気をつけてって、何に気を付けるのだろうか。


 私は王都の外に出て森の中で薬草を探し、気持ち悪いゴブリンを軽く倒して襲ってきたワイルドベアーの胸を水属性魔法で貫いておいた。二時間もしないうちにウルフィリアギルドに戻る。


「うぅーん、簡単な依頼だった。これでルークス中銀貨一枚を貰ってもいいのだろうか」


 私は薬草が入った麻袋を持ちながら考えていた。昼にもなっていない時間帯なので受付は空いており、待つ必要がなかった。


「薬草採取、終わりました」


 私は受付台に薬草が入った麻袋を置く。


「え。もう、終わったの。ああ、えっと、ありがとうございます。依頼書とギルドカードも提出してください」


 私はローブから依頼書とギルドカードを出し、受付の女性に手渡した。


「見たところ状態が良い薬草ばかりですね。文句なしに依頼達成です」


 受付の女性は私にルークス中銀貨一枚とギルドカードを手渡してきた。


「位が同じ依頼を一〇回以上達成すれば次の位に昇格する試験が受けられます。位が高い方が報酬もいいですし、ぜひ、Sランクを目指してくださいね」

「はぁ……、まあ、考えておきます」


 私はFランクの依頼を一度達成した。あと九回達成すればEランクの試験を受けられると言うことか。Sランクになるために必要な依頼達成数は七〇回。試験が六回。どれも依頼の難易度が違うので単純じゃないと思うが、楽に稼げる位まで昇給しようかな。

 懐が寒かったので気になっていた王都の物価を食堂で見る。


「よ、よかった。冒険者ギルドの中は物価がほとんど変わっていない。冒険者限定だからかな。結構ありがたい」


 パン一個がルークス銅貨一枚。水もルークス銅貨一枚で売っていた。食べ物の値段はほぼ変わっておらず、感謝感激だ。一歩外に出ればパン一個でルークス小銀貨一枚するような品もあり、お金がいくらあっても足らなそうだったので、私はギルド内で当分過ごすことになるだろう。冒険者の位を上げて稼げるようになったら王都の宿でも借りようかな。

 昼間にギルド内で部屋を借りた。部屋の間取りは支部と変わらず狭い。だが、清潔感はあった。清掃員が仕事してくれているようだ。王都での生活に慣れるまで頑張ろう。


 ☆☆☆☆


 次の朝、私は受付の女性にギルドマスターが仕事している一室の前に連れていかれた。扉は高級感が溢れ、良い木を使っているとすぐにわかる。受付の女性は仕事に戻り、私だけ扉の前に取り残された。

 扉を三回叩き、中に人物がいるかどうか調べた。


 扉の奥から「空いている」と男性の声が聞こえた。


「失礼します……」


 私は扉を外側に開き、中に入った。大量の依頼書が山積みになっており、圧迫感がある室内。もともと広々としていたはずなのに至る所に木箱や書類が置かれ、整理整頓ができていなかった。師匠と同じ性格かもしれない。

 目の前にいるのは二名の男性。一名は高そうな椅子に座り、羽根ペンを動かしながらやつれた表情で仕事している。もう一人は男性の近くに立ち、じっとしていた。秘書という奴だろうか。


「初めまして。キアス・リーブンです。手紙を持って来た者です」

「ああ、仕事しながらで申し訳ないが、私の名はルドラ・マドロフだ。ウルフィリアギルドのギルドマスターをしている。隣にいるのが秘書のカイリ・クウォータだ」


 ルドラさんはよれよれの黒い燕尾服を身に纏い、黒髪はいつ洗ったのかわからないほどボサボサの状態。清潔感がない顎髭が生えまくっていた。


「カイリ・クウォータです。以後お見知りおきを」


 秘書のカイリさんは新品同様に綺麗な黒い燕尾服を身に纏い、金色の短髪を綺麗に整えた清潔感のあるたたずまい。


「私に何か用ですか?」

「ちょっと頼み事があってな。この依頼を受けてほしい」


 ルドラさんは私に言うとカイリさんが一枚の依頼書を渡してきた。


「王都近くにある西の渓谷に住むワイバーンの討伐。報酬はルークス大金貨五枚。えっ、ワイバーンを倒すだけでルークス大金貨五枚も貰えるんですか? ワイバーンなんて、翼が生えた蜥蜴ですよね。師匠もワイバーンの肉が好きだったので私と一緒によく狩っていましたよ」

「…………」


 ルドラさんとキアスさんは目を丸くし、見つめ合ったあと私の方を向いて笑顔を作っていた。


「すぐに狩ってきます!」


 私はギルドマスターの部屋を出て、王都の中を突っ走り王都の門をくぐって、西の渓谷にすぐさま飛んだ。


「グラアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッツ!」


 渓谷に到着すると、岩壁に鋭い爪を突き立て私に目掛けてバカみたいに叫ぶ黒いワイバーンが一頭いた。大きさはざっと二五メートル。なかなかの巨体だ。周りに人はおらず、魔法を使って問題ない。


「通路を塞いでいる厄介者。討伐しないと物流が止まってしまうのか。ほんと、人気のないところで暮らせばいいのに」


 ワイバーンは勢いをつけるため体を一瞬引き、翼を広げた。何度か羽ばたき推進力を付けた後、脚の力で跳躍。私を獲物と判断したのか迷いなく飛んでくる。長い首の先端にドラゴンのような厳つい顏が付いており、見た目は似ている。だが、ドラゴンと比べるなどおこがましいほどワイバーンは劣化だ。


「蜥蜴って寒いところが苦手なんだよね。『瞬間冷凍(フラッシュフリーズ)』」


 私は右腰から一瞬で抜き取った杖の先端をワイバーンに向け、詠唱と共に魔法陣を展開。体内で練り込んだ魔力をそそぐと青っぽい粒子が飛び、黒いワイバーンの体を覆う。

 ワイバーンの巨体は一瞬で氷のように固まり、動かなくなると地面に向って落ちて行った。


「『転移魔法陣』」


 ワイバーンの落下地点に大きめの魔法陣を展開する。ワイバーンが魔法陣に落ちると魔法陣内の異空間に消えた。大きな魔法陣も消え、依頼を終える。


「良し。あれだけ大きければ異空間に入れていても見つけやすいし、すぐに取り出せる。さっさと帰ろう」


 私は西の渓谷に到着してものの一分。ルークス大金貨五枚の依頼を完遂し、王都の入り口に飛んだ。走ってウルフィリアギルドまで移動し、ルドラさんに報告する。


「失礼します。ワイバーンの討伐が終わりました」

「は?」


 ルドラさんは仕事中なのに羽根ペンを止める。


「もう終わったって。まだ、二時間も経っていないぞ」

「蜥蜴の駆除ですからね。凍らせたら一瞬ですよ」

「素材は持ってきているか?」


 ルドラさんは羽根ペンをペン立てに置き、立ち上がった。


「もちろんです。ここに出したら部屋がめちゃくちゃになるのでウルフィリアギルドの裏庭に出します」


 私達は広い裏庭に移動した。冒険者達が鍛錬するための場所らしい。


「『転移魔法陣』」


 私は魔法陣を展開し、杖先で中身を探る。大きな物体を見つけたのでもう一枚の魔法陣を展開して吐き出させた。すると凍った状態のワイバーンが現れる。上に向って吠えている氷の彫刻のよう。


「ルドラ様、これは大きな収穫ですね」

「ああ……、そうみたいだな」

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