親切な侵略者

堂場鬼院

親切な侵略者

 宇宙船が飛来してきたのを、目撃した者はいなかった。第一発見者は早朝に犬の散歩をしていた人で、空き地に見慣れないものがあると110番通報した。警察官が駆けつけるとすでに近所の人たちやジョギング中の人が集まっていて、勝手にカメラで撮影しSNSで共有していた。

「危ないですから近づかないでください! 下がって!」

 警官はそういったが、実のところ何がどう危ないかはわからなかった。

「……あ! 誰か出てくるぞ!」

 集まった人々の中から声が上がり、一斉に視線が宇宙船の昇降口に向いた。

「おはようございます、地球の皆さん。はじめまして」

 扉を開いて降りてきたのは、全身が青銅色の宇宙人だった。青白い肌は普通は不気味に思われがちだが、柔らかで滑らかな肉体は美しさが勝っていた。

「私は遠い遠い宇宙の星からやってきました。友好の証にこちらをどうぞ」

 宇宙人が配り始めたのは白くて丸い食べ物だった。ほんのり甘いにおいがして食欲を誘い、いざ食べてみると餅とパンの間くらいの食感で、食べた人はみな笑顔になった。

 初めは敬遠していた人たちも、周りが食べ始めると手を伸ばして食べた。宇宙人は次から次へと、その食べ物を取り出すので人々は遠慮なく食べ出し、警察も手に負えなくなった。

 情報はすぐさま広がり、宇宙船の周りには大勢の人々が集うようになった。

 さすがに危険だと思った警察が取り締まると、宇宙人は大人しく従った。

 しかし、食べ物の配給がなくなると民衆は憤った。これだけ物価が高く苦しんでいるのになぜ親切な宇宙人を取り締まるのかと。


 そのうち、各地で宇宙船が発見され、中から出てきた宇宙人は人々に美味しい食べ物を配給していった。

 ある日、宇宙人は集まる人々に向かってこういった。

「皆さんを我々の星にご招待したいのですがよろしいでしょうか」

 これを聞いた人々の反応は様々だった。

「住み慣れた場所を離れたくない」

「地球から離れるなんて想像もつかない」

「人間が住める環境かわからない」

 そうした意見が多い中、別に構わないという一部の人たちが、まず宇宙人に連れられて宇宙船に乗り込んだ。地上で出発を見守る人たちはどうやって宇宙船が飛んでいくのだろうかと固唾を呑んで見つめていたが、一瞬で消えてしまって驚いていた。


 一週間ほどして帰還してきた人たちがいうことには、

「彼らの星は地球の文明よりよっぽど進歩していて素晴らしい場所だった」

「地球に住み続けるなんて損だと思う」

 これを聞いた地上の人々は、それまで抱いていた不安や、聞かされていたデマや、故郷への義理などを捨て去ることにあまり躊躇しなくなっていった。いわゆるの中にはインフルエンサーと呼ばれる人もいたため、そのことも、新しい星への移住に対する警戒感やハードルをずいぶんと引き下げた。

 国としては、国民が扇動され連行されるといって対策を打とうとしたが、あまりに数が多く、その上国民が望んで出ていくので対策の仕様もなかった。


 こうして、正確な人数は把握できていないが、国民の半分かそれ以上が新しい星に移住し、初めの頃こそ定期便での往来があったものの、そのうち利用者がなくなり定住が決まった。

 いまでは、新しい星に移住した人々はそこを「天国」と称し、元いた星を「地獄」と称しているという。

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親切な侵略者 堂場鬼院 @Dovakin

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