第3話 START

案内が終わり、事務室へ戻る。話はだいたいまとまったようだ。2人とも雑談になっていた。

「失礼します。案内は終わりましたので、戻ります。」

「ありがとう。よろしくね。」

詠美は作業の和に戻り、俺は事務室に入る。鳴海は問いかける。

「やっていけそうですか?」

「ええ、1年で出ます。」

鳴海への答えにカウンセラーは問う。

「本当にいいのかい?」

「もとの環境に戻ります。」

「それができないから、病院にいたんじゃないのかい?」

「社会復帰は元の生活をすることではありませんか?」

「そうだね。やってみようか。では、私はこれで戻りますのでお願いしていいですか?」

カウンセラーは鳴海へ話題をふった。

「はい。わかりました。」

笑顔で答えってきた。安心をした。このまま病院へ戻されると思った。生活を思い出して嫌ではないが、見えない負担のある状況だったからだ。そこから出れたことは一歩前進だと思う。

「それでは使う部屋へ案内するので、明日から作業には参加してください。朝9時から夕方6時までです。明日の説明を聞いてがんばりましょう。」

「わかりました。今日はその部屋から出てもいいですか?」

「それはみんな気をつけていることです。トイレやお風呂は順番ですから、話し合って動いてください。」

「はい。」

作業棟から外へ出る。周りを見ると敷地の外へは出れないのかもしれない。塀は普通の家と同じだけど、柵は滑りやすくするためなのかテカテカしたものが塗ってあった。それを見て、自分の言った言葉が間違っていたことに気がつく。すぐには出れないだろう。脱走も難しいことだろう。周りを見ていると話しかけられた。

「そんなに珍しいですか?」

「外は久しぶりなので。」

言葉を濁すしかなかった。作業をしている人だけではなかった。花や野菜の世話をしているようだ。

「ここではもうじき花が咲きます。何の花か気になりますか?」

「お花はわからないですね。」

「そうですか。じゃあ、ゆっくりしていってください。」

すぐに花の手入れに戻っていった。枯れた葉を取り除いている。それ以外はわからないが、水をあげるだけではないようだ。

宿舎は1人1部屋、用意されていた。鳴海は案内しながら伝えた。

「さっきの農場での話し方では話せない人がいますよ。気をつけてください。」

「すみません。何がいけなかったですか?」

「それは自分で考えてください。」

「よくわかりません。ここの人達は草花を大事にしないといけないのですか?」

「そうではありません。」

「なら、問題ないのではありませんか?」

「だからよく考えてください。」

自分で言った『1年で出る』という言葉を思い出した。

「・・・わかりました。」

「気にすることは順番ではありませんよ。」

そう言い残し、鳴海は戻っていった。

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