夜の罪

赤猫

俺は欲しいからきっかけなんてなんでもいい

 いつも通りって絶対に存在する訳ではないって思った。

 朝起きたらさホテルで隣でいつも喧嘩ばっかりしている同僚が寝てるとか思わないじゃん?

 毎日のようにお互いに「クズ」とか「アホ」って低レベルの会話で罵りあっていた私たちがだよ?


 お互い産まれたままの姿で、一夜の過ちって言葉を自分が体験するとは想像出来なかったなぁ…。


 一夜の過ちって綺麗な感じに言ってるけどつまりはワンナイトだ。

 その場の男女の関係になってしまったというやつだ。

 日常を返してくれと懇願したところで帰っては来ない。


 さぁホテル代をテーブルに置いて逃げ出してしまえ!なんて思って立ち上がる。


「帰るの?今日どっちとも休みなのに?」

「あー…スゥー…えっと」


 何故私の休みを把握してるのだとか色々言いたい事が山のようにあるのだが、彼の寝起きの低い声がその…なんというか少しだけエッチだなって思って頭が上手く働かない。


「チェックアウトまでだいぶ時間あるし、まだ寝ない?」

「いや…あの男女でこういったお部屋に長い時間いるのはあまり宜しくないのでは…」

「昨日あんなに欲しがってた人がよく言うよ」

「そ、そんなこと…して、ない」


 思い出せない…が、明らかにベッド周りにある脱ぎ散らかされた服と下着が一体何をしていたかを物語っていて頭が痛くなる。


「…と思いたいんだけど」

「残念ながら最後までやりましたとも」

「最悪…彼女いない?大丈夫?慰謝料なら払うからまじで」

「いたらこんな事しないでしょ」


 私は、何ってんだこいつという顔をした。

 いるんですよそういう奴がさ。


「いや世の中には節操のない奴がいるのですよ、私の元カレみたいに」

「昨日ベロベロに酔いながら言ってたね」

「…何処まで言ってた?」

「仕事から帰ってきたら、ベッドでよろしくしてたってところは」

「全部聞いてるなさては」

「馴れ初めから記念日とかたくさん聞いたよ」

「最悪…」


 私はおぼつかない足取りで服を取り着替えをする。

 ちょっと昨日の焼肉臭いけど帰って着替えればいいのだから我慢。


「帰る?じゃあ俺も」

「あっそ、じゃあねお金ここに置いておくから」

「…なんで一緒に帰ろ」

「彼氏じゃない人と一緒にいて勘違いされたらヤダ」


 私は気にしないけど、例えば彼に片思いの人とかいたら嫌だと思って少しだけ嘘をついた。


「じゃあ本当になればいいでしょ?」

「…は?」

「きっかけはあれだけど、俺はそれでもお前のこと欲しいよ」


 いつもの様な優しくない瞳をして欲しいと私は思った。

 だっていつもより熱があって優しい瞳なんて見てしまったら、私は意識してしまう。


「な、なんで…だって私の事嫌いでしょ、いつも喧嘩ばっかりなのに…」

「仕事とプライベートは別」


 彼は私の腕を引いて隣に座らせる。

 結構勢いがあった気がするが、ベッドのスプリングが少しだけ軋んだ程度で済んだ。


「で、ワンナイトした同僚とお付き合いはしてくれない?」

「…お友達からで」

「セフレってこと?」

「お前マジでさぁ?!」


 真っ赤な顔をした私を彼は面白かったのかお腹を抱えて笑っている。


 彼が二回戦目を始めようとした時に部屋の電話が鳴ってチェックアウトの時間が迫っていることを伝えられて慌てて出たのはいい思い出だ。


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夜の罪 赤猫 @akaneko3779

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