第30話 お父さんの作るハンバーグ、大好きです
「いや~、運動の後の食事は美味しいね」
「ですね」
バスケを1時間程度してからはお昼の時間だったのもあり、近くのショッピングモールへ移動してお昼にした。
夏休みというのもあって平日だがフードコートは人でいっぱいで空いているテーブルを見つけるのには時間がかかった。
皆それぞれ頼んだものは違うがハンバーガーを食べてポテトやナゲットはみんなでシェアすることに。
「そういや、渚ちゃんって3ヶ月間だけりーくんの家にいるんでしょ? いつまでなの?」
「ちょうど今日で1週間です」
「1週間……それは大変だ」
「何が大変なんだよ」
胡桃の発言に突っ込みを入れると彼女は、小さく笑った。
「それは言えないかなぁ~。ねっ、渚ちゃん」
「えっ、あっ……はい……」
どうやら女子だけの秘密らしく教えてはくれないらしい。
「りーくん、寂しくない? 渚ちゃん帰ったら寂しくて泣いちゃうんじゃない?」
「子供じゃないんだから泣かないよ。それに藤原が帰ったとしても学校で会えるし」
「強がり」
「別に強がってない」
そう、今までに戻るだけ。渚咲と友達をやめるわけでもないし、会えないわけではない。だから寂しくなんてない……はずだ。
「私は寂しいです。亮平くんとの生活、とても楽しかったので」
隣を見ると渚咲がこちらを見て微笑んでいた。
素直に言葉にできる渚咲はやはり凄い。それに比べて俺は恥ずかしいのか口に出ない。
「渚ちゃん、その言い方だと二人暮らししてたみたいに聞こえるよ~」
「! そ、そういうつもりは……してみたら楽しいと思いますが……」
だんだん声が小さくなっていくとともに彼女の顔は真っ赤になっていく。
「やっぱり可愛いよ、渚ちゃん。そだ、みんなでプール行こうよ!」
「唐突だな」
あまりにも唐突すぎる胡桃の発言に思わず突っ込みを入れてしまう。
「夏といえばやっぱり行かないとね。渚ちゃんの水着見たいし」
「本音がだだ漏れだぞ」
「ほんとだからね。りーくんだって見たいんじゃないの? 渚ちゃんの水着」
胡桃からそう尋ねられると隣から渚咲にじっと見られていることに気付いた。
「藤原?」
「私の水着、見たいですか?」
「!」
うるっとした可愛らしい表情で尋ねてくる渚咲を見て俺はドキッとしてしまったと同時に彼女のいつもなら言わなさそうな言葉に驚いた。
正直、見たい。だが、正直に言ってしまったらキモいと言われて嫌われたりしないだろうかと思ってしまう。
けれど……渚咲と一緒に過ごす時間が増えて彼女ならそんなことを言わない気もする。
「み、見たくないと言ったら……嘘になる」
「!」
恥ずかしさに目を見て答えることはできなかったが、正直に言うことができた。
恐る恐る彼女の反応を伺うと渚咲は顔を真っ赤にして俺と目が合うとさっとそらした。
「胡桃さん、プール、行きましょう!」
「おっ、渚ちゃん行く気満々! 行こいこっ! 海人とりーくんはどうする?」
「俺は亮平が行くなら行こうかな。男子1人は流石にあれだし」
「…………みんなが行くなら俺も」
「じゃ、決まりだね!」
プールに行くことが決まるとお昼を食べつついつ行くか、集合場所はどうするかと話し合った。
「そう言えば、渚ちゃんはどんな水着持ってるの?」
「水着、ですか? 紺色ですけど」
「紺色かぁ……絶対エロい」
「?」
(紺色…………)
胡桃の水着質問のせいで渚咲が黒の水着を着ている姿を想像してしまった。
確かに胡桃の言うように絶対にエロい。いや、何着てもそう思う気がするが。
「胡桃さんも紺色ですよね?」
「えっ? 私は白だよ? まぁ、今年は新しいの買おうかなって思ってるけど」
「白? 胡桃さん、水泳の授業で紺色だったと思うのですが……記憶違いですか」
水泳の授業という言葉を渚咲から聞いて胡桃、俺、海人は「あれ、もしかして……」と思い始めていた。
おそらくここにいる全員思ったはずだ。持っている水着は可愛らしくてフリフリがついているような可愛い水着を渚咲は持っているのだと。
(けど、今の話を聞く限り違うよな……)
「渚ちゃん、まさか水泳の授業で着てる水着を着ていくつもり!?」
「は、はい……そのつもりですが」
「ダメダメ! それでもじゅーぶん可愛いけどもっと可愛いの着ないと!」
(どんだけ見たいんだよ……)
「食べ終わったら水着見に行こう、渚ちゃん!」
「はっ、はい! 可愛いの見に行きたいです!」
女子2人がこの後水着を見に行くなら俺と海人は先に帰ろうかなと思っていたが数分後俺たちも渚咲と胡桃と一緒にいた。
周りを見れば水着、水着、水着。店内には全て女性用の水着ばかりで非常に居心地が悪い。海人も同じ気持ちであると思ったが、こういうところに慣れているのか全くそんな様子はなかった。
「俺ら必要なのか?」
「必要だよ。りーくんと海人の意見も重要だし」
「はぁ……」
慣れない場所に居続けるのは落ち着かないから帰ろうと思ったが止められるよな。
変にじろじろと水着を見ると変な人に思われそうな気がして水着選びをする渚咲と胡桃を見ていた。
(楽しそう…………)
仲間に入りたいと思っているわけではないが、渚咲の楽しそうな姿を見ていると嬉しい気持ちになる。
***
ショッピングモールを出て帰る頃には日が暮れていた。
駅で海人と胡桃と別れると俺と渚咲は2人で歩いて家へ向かって歩いた。
隣を見ると嬉しそうに渚咲の姿があり、今日は誘って良かったなと思えた。
「嬉しそうだな」
「はい。可愛らしいの買えましたので」
「それは良かった」
商店街に入り、しばらく歩いていると渚咲は前から歩いてくる親子を見ていた。
仲よさそうに親と子供は手を繋いでいて、子供は嬉しそうに笑っていた。
「夕飯、何食べたい?」
「ハンバーグ!」
「わかったわ。ほんと由実はハンバーグ好きね」
「うん! お母さんのハンバーグ大好き!」
親子が横を通りすぎていくと渚咲は俺の方を見てニコッと笑った。
「ああいう会話憧れます」
「……やってみるか?」
「……はいっ」
彼女はそう言うと俺の手を握ってきた。急にどうかしたのかと思ったが、どうやら先ほどの親子と同じようにするようだ。
「ん、渚咲……夕飯は何食べたい? 今日は好きなの作るよ」
「ほんとですか? では、ハンバーグが食べたいです」
「わかった。なら夕飯はハンバーグにするよ」
「ふふっ、楽しみです」
天使のような笑顔でニコッと笑い、渚咲は上目遣いでこちらを見た。
「お父さんの作るハンバーグ、大好きです」
「っ!?」
「お、お父さん?」
「先ほどの子はお母さんでしたが、亮平くんならお母さんではなくお父さんかと」
「あっ……なるほど? お父さん……」
「…………!」
渚咲をチラッと見ると彼女の耳は真っ赤だった。
(どうしよう、この空気……)
親子の会話をしていたはずなのに夫婦みたいになってしまい、しばらく沈黙状態でいると後ろから声がした。
「あら、亮平と渚咲ちゃん」
(この声……)
繋いだ手を離そうとしたが時既に遅し。
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