第29話 夏休みの始まり

 寝れない。横に渚咲がいると思うと寝れなくなってしまった。


 目を閉じても寝よう寝ようと思っても全く寝れそうにない。


 渚咲は寝たのか気になり、横になって彼女がいる方を向いた。


 静かなので寝ているのかなと思ったが渚咲と目がバッチリ合ってしまった。


「…………寝れないのか?」

「はい。お泊まり会みたいだなと思うとワクワクしてしまって」

「ならやっぱり自分のところ戻る?」

「……いえ、亮平くんと一緒に寝たいので戻りません」

「そっか」


 ワクワクと聞いて俺も似ているなと思った。まるで遠足前日の夜、楽しみで中々寝れない日のような。


「亮平くんは、夏休み1日目、どのように過ごされますか?」

「明日は海人とバスケの予定。暑いから公園じゃなくてバスケができる施設に行こうってなってる。確か胡桃も来るって言ってたよ」


 本当はいつも練習場所として使っていた広い公園で動き回りたいが日に日に暑くなっている中、外でのバスケは暑いし、長い時間できない気がする。


「バスケ、いいですね。私、見てみたいです、亮平くんのバスケ姿」


「なら明日、一緒に行くか? 施設にはバスケだけじゃなくてカラオケとかボーリングとかもできるらしいし、胡桃がバスケ終わったら他のもやろうって話してたからさ」


「一緒に行ってもよろしいのでしたら是非ご一緒させてください。私もバスケ、やってみたいので」


 電気を消して彼女の表情はハッキリとはわからないが、やってみたいという気持ちは言葉から伝わってきた。


「わかった、俺から2人に伝えておく」

「ありがとうございます」


 胡桃、喜ぶだろうなと思いつつおそらく1番今喜んでいるのは自分自身だ。




***




(寝れません…………)


 今日見た映画が怖くて寝れなかったから亮平くんのところに着ましたが、安心感とドキドキで余計寝れなくなったような気がします。


 目を開けて亮平くんの方を見たが彼は寝ており、私は起こさないよう音を立てずゆっくりと起き上がり、部屋を出た。


 寝よう寝ようと思っても寝れないので1階へ水を飲みに行く。


 祐子さんか挨拶程度にしか話していない亮平くんと父親のどちらかはまだ起きているだろうと思い、キッチンへ行くと灯りがついていた。


「恭太郎さん?」


 キッチンにいたのは亮平くんの父親である八神恭太郎さんだった。どうやら今帰ってきたばかりのようで椅子に座って夕食を食べていた。


「藤原さん。どうかしたんですか?」


「眠れなくて水を飲みに来ました。すみません、お食事の邪魔をしてしまって」


「いや、構わないよ」


 恭太郎さんはそう言うとガラスコップに水を入れてそれを私に渡した。


「ありがとうございます」

「どういたしまして。すまないね、祐子のように大したことができなくて。困ったことがあればいつでも……と言いたいところだけど、私は家にいないことが多いから祐子か亮平を頼るといい」


 まだ少ししか話したことがないが恭太郎さんと亮平くんはとても似ている。親子だから当然かもしれないが優しいところが。


「亮平くんと祐子さんにはとても助けられてます。もちろん、恭太郎さんにも。皆さん、優しいので八神家はとても居心地のいい場所です」


「そうか……そう言ってくれると嬉しいよ」


 亮平くんは恭太郎さんのことを厳しいと言っていたが、それは多分優しさあってのものなんだろう。


 水を飲み、恭太郎さんと少し話してから私は亮平くんの部屋へと戻り、布団の中へと入る。


(後、数日……ずっとこのままここにいられたらいいのに……)


 家に帰ってもお母様は家にいないことが多いので私は1人で家にいることが多くなる。1人でいることを苦とは思わなかったはずなのに今は1人になることが怖い。


 いつから私は1人が平気じゃなくなったのでしようか…………いえ、もしかしたら元々1人で平気と思いつつも1人になるのが怖かったのかもしれません。


「どちらなんでしょう……」




***



 翌日。夏休み1日目は亮平くん達とバスケをすることになった。後1週間ほどだからだろうか。少しでも長く彼といたい。


「おっはよ~、渚ちゃん! 今日も可愛すぎ、超マジ天使!」


「おはようございます。胡桃さんも可愛らしいです、天使です」


 胡桃さんにぎゅっとハグされ、私は今日も驚きつつも彼女の背中に手を回した。


「仲良しなのはいいけど場所を考えてくれ」

「え~、りーくんも来る?」

「来ない」

「も~、海人は来るよね?」

「ここでは難しいかなぁ」

「ここではって、ここじゃないなら行くのかよ」

「海人もぎゅー好きだもんねぇ。よしっ、最初はバスケだっ! 渚ちゃん、行くよ!」

「はい!」


 胡桃さんに手を優しく握られ、バスケットコートへ移動する。

 

 亮平くんと村野くんは家からバスケットボールを持ってきたそうで私と胡桃さんはボールを借りた。


「渚ちゃんは、バスケ得意?」

「得意、とまでは言いませんができますよ。亮平くんと村野くんは中学の時、バスケ部でしたっけ?」

「そだよ。2人とも超上手いの。後、部活入ってない今でもやるほどバスケ好き」

「ふふっ、それは見ていてわかります」


 バスケットコートへ目を向けると亮平くんと村野くんは早速、バスケをしていてそれはもうわかりやすいほど楽しそうな様子でやっていた。


「好きだな……」


 亮平くんのことを目で追っていると隣にいる胡桃さんから視線を感じた。


「胡桃さん……?」

「恋してる渚ちゃん、超可愛い……」

「! こ、恋、ですか?」

「うん。りーくんのことじっと見てたから好きなんだろうなって」

「…………」


 胡桃さんの言葉を聞くと体が一気に熱くなり、両手で自分の頬をそっと触った。


「そ、そんなに見てましたか?」

「うん、じっと見てたよ。りーくん、そんなに鈍くないからガンガンにアタックしちゃお! 私、応援する!」

「あっ、ありがとうございます……ですが、具体的にどうアタックすればいいのでしょうか?」

「そりゃぁ渚ちゃんなら可愛さでしょ! 甘えん坊になるとか」

「甘えん坊……」


 小さい頃からあまり誰かに甘えたことはない。だからどう甘えたらいいのかわからない。


(どう甘えたらいいんでしょうか……)







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