第8話 金木犀

 いくつもの駅を過ぎた。風見鶏はいなくなり、標識や岩やケーブルなど、奇妙奇怪な客が乗っては降りていった。今や、乗客はルイとモナ、リューズの二人と一匹のみだ。モナは何度も寝たり起きたりした。

「次は鉄の郷駅です」

 アナウンスが流れた。うたた寝していたモナが起きる。

「鉄の郷って言った?」

「私にもそう聞こえました」

 電車が減速する。モナは立ち上がり、通路へ飛び出す。

「急に動いたら危ないですよ」

 ルイが声をかけるが、モナは聞かない。ドアの前に立ち、霧が晴れるのを今かいまかと待っている。

 霧が晴れる。

 青い空、赤茶色の山脈。山の麓に広がる町。

 多くの家に煙突があり、灰色の煙が空へ向かってのびている。

 電車は立派な造りのホームに入り、停止した。

 モナとリューズが最初に、ルイが次に降りる。

 出た瞬間、煤煙の微かな臭いを嗅ぎ取った。

「ここは、なんの町ですか? 鉄の郷というくらいですから、製鉄ですか?」

「うん。山から鉄を取ってきて、色々作る」

 改札口を通ると、鬼族の駅員がいた。赤い肌に金色の髪、頭頂部の二本の角が特徴的だ。紺色の着物を着ている。

「こんにちは。訪問者は、入国に審査が必要です。こちらにお進みください」

 二人はそれぞれ、小部屋で審査を受けた。荷物の確認と入国理由、身体検査を受け、入国許可が出た。ようやく駅を出られた。

 駅前は、多くの店が立っていた。観光客向けの宿屋に土産屋、食堂もある。蒸気をあげてバスが走っている。

「栄えてますね。こんなに大きな世界に来たのは、久しぶりです。今日は屋根のあるところで眠れそうですね」

「うん。お祖父ちゃん家に泊めてもらおう」

 蒸気バスに乗る。駅前から離れ、郊外の森の入り口で降りる。

 降りた瞬間、甘い芳香がルイの鼻をくすぐった。

「お祖父ちゃん家はこっち」

 モナはリューズを抱えて森に入っていく。ルイはその背中を追った。森に入った途端、芳香は強くなった。

「この匂いはなんですか?」

「金木犀だよ。ここは金木犀の森なんだ。鉄の郷にはよく植えられてる。煙が臭いのをなんとかしようとしたんだって」

 木製の巨大な門が見えてくる。両開きの門で、中央部に複雑な金具が装着されている。

「あれがお祖父ちゃん家」

 モナが指を指して言った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る