第9話 空き瓶

 モナは門をトントンとノックした。

「モナだよ。お祖父ちゃんに会いに来た」

 すると、門の右端の一部分が四角く切り取られたかのように、パカリと開いた。

「モナちゃんか! 久しぶり! 無事で良かった」

 若い青年の鬼族が、門の向こうから飛び出してくる。

「ただいま、リョク兄さん」

 リョクはモナの頭をガシガシと撫でた。そして、怪訝な顔でルイを見る。

「初めまして。ルイズライカンと申します。天穹迷宮の外から参りました、旅の研究者です」

「今、ルイと一緒に、外を目指して旅してるんだ」

 リョクはルイと握手する。

「初めまして。外の世界からようこそお越しくださいました。中にお入りください」

 門をくぐると、立派な庭園がルイを出迎えた。丸く刈り込まれた緑の植え込み、地面を飾る真っ白な玉砂利。長方形の石畳が奥の屋敷へ向かって、等間隔に並べられている。

 玄関の前に来ると、両開きの扉がひとりでに開いた。

「久しぶりだな、モナ!」

 体格の大きい、壮年の鬼族が中から飛び出してきて、モナを抱きしめた。モナが苦しそうな声をあげ、慌てて離れる。

「すまんすまん。力が強過ぎたな。全然連絡がとれなかったものだから、心配していたんだ。帰ってきてくれて嬉しいぞ。さあ、中に入って休んでくれ」

 屋敷に入った。板張りの廊下をぬけ、藁のような繊維が編まれた、独特の床の部屋に通される。モナが、「これは畳だ」と床を指してルイに教えた。

 広々とした部屋でくつろぎ、夜には二人をもてなす宴会が始まる。二人の前にたくさんのご馳走が並び、ルイのお猪口に酒が注がれる。モナは「うるさいのは嫌だ」と、早々にいなくなった。ルイ一人で鬼族達と懇談しているうちに、彼らも次第に酔っ払ってきて、どんちゃん騒ぎになり、床に空き瓶が転がりはじめた。

 ルイは手洗いに行くフリをして、部屋を出た。あてがわれた寝室に戻ろうと歩いていると、リューズに出会った。リューズについていくと、モナがいる部屋にたどり着いた。

 モナの部屋は、ものでごちゃついていた。木製の棚に大量の工具や部品がある。彼女は中央の作業台で作業をしていた」

「宴会は終わったの?」

「いえ、まだ。少し休憩しに部屋を出たところ、リューズに会いまして。ここが貴女の部屋なんですね」

「うん。元々はオウ兄さんの部屋。私が借りてる」

 モナは工具を置いた。作業台の上に、機械仕掛けのネズミがいた。ゼンマイを回して床に置くと、ネズミが走り出す。リューズがそれを追いかける。

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