第7話 風見鶏

 列車は、濃霧の中を走っている。車窓は真っ白で、なにも見えない。

 ルイは座席に座っていた。座面は柔らかく、深く腰掛けると、背もたれのクッションが体重を優しく受け止める。

 モナは隣ですやすやと眠っている。モナの膝の上でリューズも寝息を立てている。疲れていたのだろう。ルイはそっとしている。

「次は□□■◇◆□駅です」

 くぐもった声の車内アナウンスが流れる。駅名だけ聞き取れない。しかし、音の響きが不吉に感じられる。

 やがて、電車が減速し始めた。窓の向こうの霧が晴れる。

 まず見えたのは山脈だった。

 荒々しい岩盤が剥き出しの山脈である。頂上付近は真っ白。下を見ても大地が見えない。横を見ても終わりが見えない。どれほど巨大な山脈か、ルイには想像もできない。

 峻険な山肌には、無数の風見鶏が立っている。

 風見鶏そのものは、至って普通である。鶏を模した、風向を知らせるオブジェである。色も大きさも様々な風見鶏が、山脈の至るところに立っている。

 電車が停止した。ドアが開く。

 乗ってきたのは、大量の風見鶏達だった。一本の支柱でピョンピョンと飛び跳ねながら入ってくる。列車内は風見鶏でパンパンになった。

 列車が出発する。再び車窓が霧で真っ白になる。

 風見鶏は喋らない。当然である。発声器官がないのだから。

 ただ、カラリカラリと音を立てて鶏の部分が動く。一つが動けばまた一つ。二つ回ればまた二つ。

 風見鶏が動く音はいつか重なり、大きくなる。しかし、煩わしくはない。美しいメロディーに聞こえる。

 ルイは、彼らの大合唱に、じっと耳を傾けていた。

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