好き。そう言えていたら
カシ夫
好き。そう言えていたら
街で花を目にすることが増えてきた。もう春だ。
林立するオフィスビル。そのあちこちのビルの外観を飾る植栽にも花が咲き始めていた。
「みやこー!
定時で上がれそうか?」
明るい声で問いかけているのは
「大丈夫。もう終わるよ」
修平の顔も見ずに答えたのは
今日も二人で仲良くお帰りですか。
相変わらず仲いいねえ。
先輩社員達に笑われながら、修平と都は連れ立ってオフィスを後にした。
「これから飯食ったらさ、
「いいけど?」
春の風に街路樹の白い花が揺れていた。
「でさ、
結杏。
その名を聞いた都の胸にずしりと重い雲がかかった。
都の様子を気に留めるでもなく、修平は都の胸元に顔を埋めていた。
「確かに出し忘れ多いよね。
ちゃんと教えてあげなよ?」
「何回言ってもダメなんだよなあ、あいつー」
「んっ、嚙まないで」
「いいじゃん」
「もおー」
修平にとって都は何でも話せる存在だ。仕事もプライベートも。それどころか恋人のことまでも。家族以上に自分のことを打ち明けられる大親友だと思っている。
会話のテンポが合う。話が合う。馬が合う。仕事での連携もバッチリだ。
なにより、身体の相性が最高に良い。
修平が都への好意的な気持ちを再確認しながらその肌を味わっている間、都もまた修平の肌の心地よさに意識を漂わせ漏れ出る声を抑えられずにいた。
都の艶やかな声、熱を帯びた荒い吐息、じっとりと
みやこ
しゅうへい
何回、互いの名を叫んだろうか。
けれども、愛を語る言葉はひとつも出なかった。
「――修平?」
「うん? どうした?」
気だるくも心地よい疲労感に包まれながら、ベッドに横たわったままふわりと抱き合った。
「
事後の甘い時間のはずなのに。
莉玖の名を聞いた修平の胸がジリジリと焼ける。
「そっかあ。
じゃあ結杏にも声かけとくよ」
「うん、よろしくね」
結杏。修平の恋人であり、同期入社の仲間である。
莉玖。都の恋人であり、彼も同じく同期入社である。
「結杏のところは週末が忙しいから、飲み会のセッティングが難しいんだよ」
「そうね。
で、莉玖のところは客先次第だしね」
同期入社の四人。入社以来、部署は違っても休日に集まって遊ぶほど仲が良い。この友情がずっと続けばいいのに、と誰もが願っている。
そんな話題でお喋りしながらも都の手は修平の肌を撫で、修平の唇は都の肌を赤く染めていた。
「都とこうしてるの、本当に気持ちいい。
風呂に入って寝るより癒される」
「それは私もだってば。
修平なら何でも言えるし」
「何でも……見せ合えるしな」
「……ふふ」
「もう一回、しとく?」
「いいよ」
再び彼らは、互いの名を呼び合い肌を求め合う行為に
決して愛は語らずに。
終電になる前にと二人はホテルを出て駅へと向かった。
さっきよりも風が強くなっていた。街路樹の白い花びらがひらひらと舞っている。
「修平……!?」
「バカ、声出すなよ」
聞き覚えのある声に驚いた。一瞬で背中が凍り付く。
だが、振り向かねばなるまい。
「結杏」
「莉玖」
「都……お前ら」
ここはホテル街。
街路樹のコブシの花が強風で花吹雪のように舞っている。
コブシの花言葉は『友情』。
「ごめん、あたしね、莉玖が――」
「結杏、待てよ、結杏。
俺が話すから。
――都、ごめん。
俺、結杏の事が好きになっちゃって、こうやって……」
突風が吹く。
コブシの花吹雪で前が良く見えない。
「いいよ。お互い様だ。
俺も都が好きだから」
私も修平が好き。
都は口には出せなかったが心の中ではっきりと唱えた。
修平と都が身体の関係を持つようになって一年。初めて好きだと言葉にした。
もっと早く自分達の気持ちが友情ではなく愛情だと認めていられたら、果たして結杏と莉玖はこうなっていただろうか。
修平も都も、罪悪感で言葉が出ない。
「本当にごめん。
もう一年くらい前かな。
俺が結杏を誘ったのが悪かったんだ」
一年くらい前?
どちらが先に浮気をしたのか。解明しないほうが良さそうだけれど。
「臨時の同期会、今からやろうか。
朝までなっ。」
「そうだね、明日は土曜日だしね」
「うわ、気まずー」
「自業自得。お互いにね」
揺れる街路樹の白い花。
花言葉は『友情』『歓迎』『信頼』
好き。そう言えていたら カシ夫 @NEXTZONE
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