第51話:一時休息
「まさか、あの父さんが“魔王”だったとわかるなんてな……」
俺、黒辻レイは荒野を抜けて少し開けた場所に腰を下ろしていた。
さっきまで散々な戦闘を繰り返してきたし、みんな疲労の色が濃い。
モモがテントを張りながら、微妙に目を伏せる。
「レイさん、本当に大丈夫ですか?
自分の父が魔王だなんて聞いたら、ショックも大きいんじゃ……」
「……そりゃ戸惑いはあるけどさ、少しずつ受け止めるしかない。
母さんの正体はまだはっきりしないし、それを確かめるためにも前へ進まなきゃ」
そう呟くと同時に、胸の奥がぎゅっと締めつけられるような気がする。
父が魔王……じゃあ母は……? 疑問が尽きない。
「さて、ここで一旦休憩じゃな。
追っ手もまだ来ていないようじゃ」
じいちゃんがあたりを見回しながら慎重に言う。
イリスも「補給と休息は大事ね」と同意を示した。
魔王の遺構を出てからずっと走りづめだったので、まずは身体を休めるのが先決だろう。
だけど、気力が回復してくると、今度は落ち着かなくなる。
(俺はもっと強くならなきゃ、暗黒王国でこの先何が起きるかわからないし……)
そんなことを考えていると、モモが近づいてきて声をかける。
「レイさん、ちょっと付き合ってほしいんです。
もう少し剣の感覚を確かめておきたくて……」
彼女の瞳は真剣だ。
魔王が父親だったとわかった俺に気を使っているのかもしれないけど、同時に“戦力強化”を意識している感じが伝わってくる。
「もちろん、いいよ。俺もこの紋様の力を上手く扱いたいし、一緒に修行しよう」
イリスは「まったく、好きねえ」と呆れ気味だが、優しい笑みを浮かべている。
じいちゃんも「見張りはわしがやっておくから、好きにやればいい」と背中を押してくれた。
「ありがとう、じいちゃん。イリスは休んどいてくれ。最近無理しすぎだろ?」
俺がそう言うと、イリスは「誰に心配されてんのよ」とそっぽを向きながらも、顔はどこか嬉しそうだ。
◇◇◇
「よし、ここなら邪魔にならないだろう」
夕暮れの光がオレンジ色に染まる中、俺とモモはキャンプから少し離れた平坦な地面で向かい合う。
「ふふ、レイさんと修行って思うと緊張します」
「いや、俺のほうが緊張するよ。モモは元々すごい戦闘センスがあるし」
モモは控えめに笑い、勇者の剣をゆっくりと抜く。
彼女の抜き身の剣には淡い光が宿っており、手慣れた動きで軽く素振りをしてみせる。
「ライト・ブレイズ以外にも技を増やせればいいんですけどね。今はまだ研究中というか……」
俺も右腕の光の紋様を意識してみる。
何度も使ってきたが、完全に制御できるわけじゃない。
特に力を出しすぎると暴走しかねないため、扱いにはまだ不安がある。
「モモ、まずは普通に模擬戦しよう。こっちもいろいろ試したいから」
彼女が「はい!」と力強く応じる。
一呼吸置いて、彼女が先手を取って駆け寄ってきた。
きらりと剣が光を帯び、シュッと鋭い風を切る音が聞こえる。
「はやっ!」
間合いが一瞬で詰まる。
俺は咄嗟に光の刃をイメージしてガード。
カキン!と高い衝撃音が鳴り、俺の手首にビリッと振動が伝わる。
「さすがだね、モモ……けど!」
振り払うように光を放ち、モモを後退させる。
その間に、俺は大きく踏み込み、右腕の紋様を集中させて光弾を生成。
「光の……弾……撃て!」
ドンッ! と小規模な爆発音がして、光弾がモモに迫る。
けれど彼女は冷静に剣を振り下ろし、その弾を斬り裂いてしまう。
「やっぱりモモ、すげえな……」
モモは恥ずかしそうに頬を緩め、「レイさんだって十分すごいですよ!」と言い返してくる。
そんな調子で数分間、二人で模擬戦を続ける。
攻守が目まぐるしく入れ替わり、光の衝撃波や勇者の斬撃が激突して派手に地面を削っていく。
“修行”のはずが、まるで本物の戦場を思わせるほど迫力ある演習になっていた。
「はぁっ、さすがに疲れた……」
少し距離を取ったタイミングで息を整える。
モモも同じく汗ばんでいるが、その表情は充実しているように見える。
「レイさんの紋様、だいぶ安定してきた感じがしますよ。
さっきの光弾も前より精度が上がってました」
「そっか。……ありがと、モモ。この調子で続ければ、もっと制御できるようになるかも」
頷き合うと、ちょうどじいちゃんの呼ぶ声が遠くから聞こえた。
夕食を始めるらしい。
俺とモモは笑いあいながら、キャンプのほうへ戻ることにする。
――こうして短いながらも“修行”と呼べる時間を確保できた俺たちは、少しだけ成長を手応えとして感じることができた。
だが、この夜はさらに驚く展開が待っていたのだ。
その予兆を知る由もないまま、夜が静かに更けていく。
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地球は異世界逃亡者の楽園だそうです~父が魔王で母は聖女、なのに俺が普通の高校生ってどういうこと!?~ のいのい @suumodaisuki
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