第50話:追っ手



 「バリアが……途切れた?」


 遺構の最奥で、モモが目を凝らして通路の先を見やる。

さっきまで通ってきた通路にはうっすらとした魔力のバリアがあったのに、いつの間にか消えている。


 嫌な予感がする。


 俺はすぐに周囲に意識を張り巡らせた。


 すると……


 ドゴォン!

 と盛大な爆発音が響き、遺構の入り口付近から衝撃が走った。


 「敵だ……しかもかなり手荒な連中みたいね」


 イリスが闇の魔力を溜めながら険しい顔をする。


 じいちゃんも剣を構え、「わしらの動きに気づかれたか」と低く唸った。


 バタバタと足音が近づいてくる。

 どうやら十数名の武装兵が、俺たちを仕留めるべく突撃してきたようだ。


 「やっぱり、闇公爵の手下なのか?」

 「そうでしょうね。検問所や砦での騒ぎが伝わったのね……」


 モモが前に出ようとしたとき、砲撃のような魔力弾が通路を塞ぐ壁を吹き飛ばした。


 「くっ……モモ、危ない!」


 俺はとっさに光の紋様を強化し、盾を作って爆発の破片からモモを守る。

 大きな破片が激しく弾け、激しい衝撃が肌を打つ。


 「きゃっ……ありがとうございます、レイさん!」


 モモが感謝の声を上げるのと同時に、奥から現れたのは黒装束の騎士たち。


 頭には不気味な紋章が刻まれていて、凶暴な笑みを浮かべている。


 「見つけたぞ、魔王の遺構を探るバカどもめ。ここは我々“公爵軍”の縄張りだ」


 リーダー格の男が吼えるように言い放つと、配下が一斉に斧や剣、魔法の準備を整える。


 これまでの小競り合いとは別格のオーラを放っており、明らかに精鋭だ。


 「ハン、どこまで邪魔してくる気だ。悪いけど、俺たちも退けないんだよ!」


 俺は右腕の光の紋様を全開に引き出す。

 あの男たちを一気に制圧する必要がある。


 「モモ、イリス、じいちゃん――やるぞ!」

 「はい!」

 「オーケー!」

 「油断は禁物じゃぞ!」


 闇の騎士たちが先手を打って魔力弾を連発してくる。

 イリスが漆黒のオーラをまとって迎撃する。


 黒と黒がぶつかり合い、ドカン!と激しい爆発音が鳴り響く。

 吹き飛ぶ破片の中を、モモが疾走する。勇者の剣が青い閃光を纏い、敵の前衛をまとめて切り裂いた。


 「ライト・ブレイズ!」


 ズバァン! 

 と大きな音が響き、モモの剣圧が騎士数名を巻き込んでぶっ飛ばす。


 尋常じゃない斬撃力に、敵は仰天したようだ。


 「な、なんだこの娘……! 化け物か!」

 「まだだ、総攻撃をかけろ! 遠距離班、魔法を撃ち込め!」


 騎士たちが後方から強力な魔法を撃ってくる。

 火の玉や落雷が四方八方に飛び交い、遺構内で大爆発が連続。


 「レイ、援護を!」


 イリスが声を上げる。

 彼女も複数の魔法を相殺しきれず、少し押され始めた。


 「まかせろ……うおおっ!」


 光の紋様を剣に宿し、大きく振りかぶる。

 稲妻や火球が迫る中、俺はその衝撃を斬り払うように自分の魔力をぶつける。


 衝撃波が炎をかき消し、稲妻を粉砕する。


 「くっ、今度はこっちだ!」


 敵リーダーが猛ダッシュで突っ込んでくる。

 凶暴な魔力を纏った剣が、俺の頭上めがけて振り下ろされた。


 「年寄りは無視したらいかんぞ!」


 じいちゃんが横から一閃。

 熟練の剣技がリーダーの攻撃を受け流し、隙を生んだ。


 「今だ、レイ!」


 「ありがとう、じいちゃん!」


 俺は一瞬のスキに突き込み、光の刃をリーダーの胸元に叩き込む。


 「ぐああっ……!」


 リーダーは断末魔を上げて地面に崩れ落ちる。

 指揮を失った敵たちは動揺し、一斉に後退を始めた。


 「もう終わり?散々偉そうに言っといて、この程度なのね……」


 イリスが冷ややかに呟く。


 残った騎士たちは後ずさり、「退避だ! 闇公爵様に報告を――」と叫んで逃げ去っていく。


 数分の激闘を経て、遺構は再び静寂を取り戻した。


 「ふぅ……なんとかなったな」


 俺は肩で息をしながら、全員の無事を確認する。

 モモもイリスもじいちゃんも、大きな傷はなさそうだ。


 「でも、暗黒王国はこんな連中ばかりなんですか?」


 モモが苦笑いしながら剣を収める。


 イリスは皮肉っぽく肩をすくめる。


 「仕方ないわ。魔王がいなくなってから、みんなが好き勝手やってるんだから」


 (父さんが魔王……。それはもうほぼ確定なんだ。

 母さんの正体は一体何なんだろう……?)


 頭に浮かぶ疑問を飲み込みながら、俺は引き続き周囲を見渡す。

 まだこの場所に、父さんの手掛かりがあるかもしれないから。


 「よし、とりあえず今日はここで仕切り直そう。夜になればまた敵が襲ってくるかもしれんが、必要最低限の情報は確保してから移動じゃ」


 じいちゃんがそう提案し、俺たちは賛成する。

 父が魔王だと知った今、先に進む覚悟はますます固まった。


 ――俺は“魔王の息子”として、この暗黒王国で何をするのか。


 その答えは、きっとこの先にある。

 だが、敵も黙ってはいないだろう。


 闇公爵、そしてさらなる強敵が待ち受ける可能性は高い。


 「行こう。ここで立ち止まっても仕方ない。俺たちは、父さん……いや、魔王ガイの足跡を追っていくんだ」


 モモやイリス、じいちゃんも力強く頷く。


 ――果たして、この先に何が待ち受けているのか。

 母の正体はまだわからないが、必ず突き止める。


 俺は仲間たちと共に、激しい鼓動を胸に、また一歩を踏み出すのだった。

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