第43話:修行


 「はあぁっ!」


 モモの剣が鋭い閃光を放ち、俺の目の前を横切る。


 翌朝――


 山道の野営を飛び出し、早速俺たちは“修行”なるものを始めることになっていた。

 きっかけはモモの一言だった。


 「私、もっと強くなりたいです! 

 このまま暗黒王国に行っても、強敵が出てきたら勝てる自信がなくて……」


 モモがそんな風に言い出すから、ハルとイリスも「確かにいい案だ」と大賛成。


 「レイも、そろそろ自分の右腕の紋様をコントロールできるようにならんとな」 

 とじいちゃんが言う。


 確かに――


 父が魔王かもしれないって話に触れれば、先には必ず強大な敵がいる。


 モモの才能はすごいけど、それだけに頼るわけにはいかないし、俺自身ももっと力を引き出したい。


 「わかった。じゃあ、まずはモモと俺がペアになって戦闘練習をしよう!」


 山道を少し離れた場所にちょうどいい空き地があった。

 木立が周囲を囲んで視界を遮るが、その分、外から見られにくい。


 「まさかこんな形で合同トレーニングすることになるとはね……

 ま、いいんじゃない?」


 イリスが腕を組みながら呆れた口調で言うと、じいちゃんは「わしは見守るだけじゃが、気を抜くでないぞ」と頬を緩める。


 「お願いします、レイさん! 遠慮は要りませんから!」


 モモが朗らかに言ってくれるが、遠慮しないとなると、彼女の剣はかなり手強い。

 昨夜見た動きが証拠だ。


 「じゃあまずは模擬戦だな。イリス、適当な小型モンスターでも召喚してくれるか?」


 「仕方ないわね。ちょっとだけよ?」


 イリスが暗黒魔力を集中し、簡易的な召喚陣を足元に刻む。

 すると、狼のようなモンスターが数体出現し、俺たちに吠えかかってくる。


 「よし、モモ、連携取ろう!」

 「はい!」


  ――ガルルルッ!

 

 狼型モンスターが鋭い牙を剥いて突進してくる。

 モモはその一匹に狙いを定め、横薙ぎの斬撃で牽制。

 俺は光の紋様を右腕に宿し、光の刃をイメージして反撃のチャンスを狙った。


 「せいっ!」


 モモが見事なフットワークでモンスターの足元を切り裂き、動きを鈍らせる。 

 すかさず俺が右腕に力を込め、光弾を飛ばす。


 「うおおっ!」


 光弾は真っ直ぐ狼モンスターの胸元を撃ち抜き、消滅させた。


 「いい感じだね! 

 でも、モモの動きに比べると俺がまだ追いついてない気がする……」

 「そんなことありませんよ、レイさん! 私こそ、レイさんの光があるからこそ安全に動けるんです!」


 小手調べは順調だ。

 このままモンスターを倒して修行を重ねようとしたとき――


 「ちょっと大物を出すわ。気を抜かないでよ?」


 イリスが笑みを含みながら、少し複雑な魔法陣を描く。

 現れたのは、さっきの狼とは段違いに大きい“牙狼獣”だ。

 鋭い爪と体格は、軽く三メートルを超えている。


 「うわ、でかい……でも、ここでやめるわけにはいかない!」


 モモが一歩前に踏み込み、勇者剣を構える。

 俺はすぐ隣に立ち、光の力を巡らせた。


 牙狼獣が咆哮とともに地を蹴り、モモに飛びかかる。


 「モモ、危ないっ!」


 俺が慌てて叫んだときには、すでにモモは低い姿勢で突進をかわしていた。

 相手の腹部を狙うが、剣先が分厚い毛皮に阻まれて深く通らない。


 「くっ……硬いです!」


 モモが動揺していると、牙狼獣が飛びかかりながら爪を振り下ろす。


 「間に合え!」


 俺は急いで光の刃を発動し、間に入る形で防御。


 ガキィン! 


 という衝撃とともに、俺の体が地面へ押しつけられそうになる。


 「こいつ、パワーが半端ない……!」


 踏ん張りつつも、右腕が悲鳴を上げかける。

 だが、この程度で倒れるわけにはいかない。

 モモが少し後退しているのが視界に入る。どうやら何か考えている様子だ。


 「レイさん、少しだけ時間をください! 

 今、私、技を試してみたいんです……!」


 「わかった……俺がその間抑える!」


 牙狼獣の凶暴な連撃を、俺はギリギリで捌きながら、モモの動きを待つ。

 彼女が剣を両手で握り、黄金色に光る紋様を生み出しているのがわかる。

 まるで聖なる力が剣に集中していくようだ。


 「……“ライト・ブレイズ”!」


 モモが声を張り上げた瞬間、彼女の剣から激しい光の斬撃が飛び出した。

 回避しようとした牙狼獣の動きが一瞬止まる。

 照りつけるような光が直撃し、その体をまるごと貫くように切り裂いた。


 「ガウアアッ!」


 牙狼獣は絶叫を上げ、光の余波に包まれながら消滅していく。


 「す……すごいな。これがモモの必殺技?」


 俺はその眩しさに思わず目を細めた。

 イリスさえも驚いた顔で「やるわね」と呟いている。


 「や、やりました……! 新しい技が出せるなんて思わなかったけど、頭の中で“光を剣に集めるイメージ”をしたら、自然と力がわいてきて……」


 モモは息を切らしながらもうれしそうに笑った。

 勇者の才能が、今ここで開花したのだろう。


 「さすがモモだな。あんな硬い毛皮をもろに吹っ飛ばすとは……」

 俺が素直に賞賛すると、モモは「むしろレイさんが守ってくれたからです!」と照れた表情で手を振る。


 そうして俺たちの初めての協力修行は大成功で幕を下ろした。

 牙狼獣を倒したことで、モモが新たな必殺技“ライト・ブレイズ”を会得。


 俺も彼女に負けないよう頑張らなくちゃと強く思わされた。


 「上出来じゃな。わしが口を挟むことすらないくらいに息が合っていたぞ」


 じいちゃんが誇らしげに頷き、イリスは「ま、ちょっと認めてやるわよ」と少し素直になっている。


 これから先、暗黒王国の危険地帯を進むうえでも大きな収穫だ。

 今のうちにできる修行はしておいて損はないだろう。


 ――しかし、その夜、思わぬ形でイリスが“過去”を語り出すことになる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る