5章:父は魔王!

第41話:新たな旅立ち


 「あの大司教、しつこく追ってこないかな……」


 俺、黒辻レイは夜明けの路地裏を警戒しながら、モモやイリス、それにじいちゃんと一緒に足早に移動していた。


 数時間前まで聖都で大暴れしていたのだから、そう簡単に見逃してくれるとは思えない。


 それでも今は、父さんと母さんの正体を探るため、この地から離れるしかないのだ。


 「レイさん、大丈夫ですか? 

 さっきから顔色があんまり良くないように見えますけど……」


 モモが心配そうに声をかける。

 彼女は勇者の血統を受け継ぐ少女で、信じられないほど高い戦闘センスを持っている。


 「いや、平気だよ。ちょっと寝不足なだけさ。

 ……モモこそ疲れてないか? ずっと歩きづめだろ」


 「私ならへっちゃらです! もっと大変な修行だってやってきましたから」


 にっこりと微笑むモモを見ると、こっちまで元気がわいてくる気がする。


 イリスは「早く行こう」とせかすように、時々後ろを振り返っていた。

 暗黒王国出身の彼女にとっても、今の聖都に留まるのは得策じゃないのだろう。


 「レイ、気を抜いたらすぐ捕まるわよ。

 さっさと出発しないとまた揉め事になりそう」


 「わかってるよ。じいちゃん、体は平気?」


 じいちゃん――ハルが小さくうなずく。


 「わしは大丈夫じゃ。こっちよりあの大司教の動向が気になるが……

 ま、今は身を隠すのが先決じゃのう」


 そう言って、じいちゃんがふと笑みを浮かべると同時に視線を遠くに向けた。

 もうすぐ街外れだ。


 「この先にある国境を抜ければ、暗黒王国へ続く道がある。

 そこにはおまえの父親――魔王の足跡も残っているかもしれん」


 「もし本当に父さんが魔王なら、なおさら一刻も早く真実を知りたい……。

 地球に戻る方法だって、何かわかるかもしれないしね」


 暗い狭い通りを抜け、目の前に広がるのは聖都の大門。

 警備兵がちらほら見回りをしているが、今なら隙を突けそうだ。


 イリスが「さあ、行くわよ」と合図を送り、俺たちは門の影をうまく縫うように移動する。


 ――だが。


 「待て、あれは……」


 じいちゃんが低い声で警告すると、門付近に数人の騎士が立ちはだかっているのが見えた。

 よく見ると、昨日の騎士団とは違う徽章をつけている。


 「大司教の直属の部隊かも……やっぱり待ち伏せされてたのね」


 イリスがひそひそ声で言う。

 モモは「ここで引き返したらいつ出られるかわかりませんよ!」と、小声ながらも意気込んでいる。


 「仕方ない。正面突破しかないな」


 俺は腕の光の紋様に意識を集中させる。

 昨夜の混戦でひどく暴走しかけた力だけど、今は強い意志で制御できそうな感覚がある。


 「モモ、行ける?」

 「はい、任せてください!」


 驚異的な勇者の才能を持つモモは剣を抜き、真っ先に門のほうへ走り出した。


 「誰だ! こんな時間に……」


 騎士の一人が気づいたときにはもう遅い。

 モモの一撃が剣を叩き落とし、相手を地面に転がし無力化する。


 「す、すごい……!」


 俺が思わず息を飲む。

 モモの速度も威力も、今の俺じゃ追いつけないほど高レベルだ。


 「レイ、油断しないで! 他にもいるわよ!」


 イリスの声にハッとして顔を上げると、さらに三人ほどの騎士がこちらを取り囲もうとしている。


 「まずい……これ以上は放っておけない」


 紋様に光が宿るのを感じながら、俺は剣をイメージする。

 目に映るのは、真っ白い光をまとった刃――昨夜の戦闘で一度だけ出現した武器だ。


 「うおおおっ!」


 気合いとともに光の剣を出現させ、突進してくる騎士を横合いから切り裂く。

 衝撃で騎士の武器が弾かれ、鎧にヒビが入る。


 「ぐあっ……なんなんだ、その光……!」


 騎士が怯んだ隙に、イリスが闇の魔術を投げ込み、吹き飛ばす。


 「へへ、やったわね。相変わらず派手じゃない」

 「それはイリスの魔術も同じだろ」


 じいちゃんもサポートに回り、残りの騎士たちをさばいてくれる。

 こうして見ると、じいちゃんの剣さばきはまるで円熟の域。


 さすがは伝説の勇者と言われた男だ。


 「ふふ、若い者にはまだまだ負けんぞ」


 数分の戦いで、騎士たちは完全に沈黙した。

 どうやら大司教が急遽編成した部隊らしく、思ったほど鍛えられてはいなかったらしい。


 「今のうちに門を抜けましょう!」


 モモが声を張り上げる。

俺たちは傷ついた騎士たちをやり過ごし、大門をくぐり抜けることに成功した。


 「よし……これで聖都脱出だな」


 重い肩の荷が下りた気がする。しばらくは追っ手も来ないだろう。


 「さて、まずは暗黒王国方面へ向かうか。じいちゃん、頼むよ」

 「ああ、わしに任せておけ。ここから荒野を抜けた先に国境がある」


 俺たちは夜明けの光を背に、次の目的地を目指して歩き始める。


 父が魔王、母が聖女かもしれない――そんな現実から逃げないために。


 地球へ戻る術を探すために。


 (これからが本当の勝負だ。絶対に負けない――)


 心の中でそう誓いながら、俺はメンバーの後ろを追う。


 負ける気はしない。


仲間がいれば、どんな困難だってきっと乗り越えられるはずだ。

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