第29話:闇の王との最終戦


 「あいつが……闇の王、なのか……」


 俺――黒辻レイは、広い玉座の間に足を踏み入れ

 どす黒い気配を放つ男と対峙していた。


 闇の王は巨大な漆黒の玉座から立ち上がると

 まるで獣のような低い唸り声を上げる。


 背後に控える配下たちも緊張した面持ちで俺とイリスを見つめていた。


「いかにも……我が闇の王だ」


 そうボソリと洩らした闇の王は

 ゆっくり手を掲げると玉座の周囲に渦巻く闇のオーラを一斉に吸い込む。


 一瞬にして空気が重くなり、頭がガンガン痛み出すほどの圧力が襲ってくる。


「ぐっ……なんだ、この威圧感……」


 イリスが歯を食いしばり、杖を構える。


 一方で俺は右腕に光る“あざ”を感じ

 同時に今まで以上に“謎の力”が奮い立つ感覚があった。


「よくぞ来たな。私の邪魔をした話は配下から聞いている……

 貴様らが無駄に暴れ回ったらしいな」


 闇の王が低く笑う。


 玉座を下り、重々しい足取りでこちらに近づいてくる。


 配下の男たち――


 先日見たビロック含む幹部数名が後ろでニヤリと嗤うが

 その表情にはどこか焦りの色が混ざっている。


「闇の王様……まだお力が……」

「貴様らは黙っていろ。こいつら程度なら、今の我でも十分だろう」


 闇の王の言葉に、俺は薄く唇を歪めた。


 正直、押しつぶされるようなプレッシャーは本物だが

 どうやら万全ではないようだ。


 卑怯かもしれないが、そんな相手に怯んでいる暇はない。


 集落の人たちを救うためにも

 この世界に巣食う悪を放っておくわけにはいかない。



◇◇◇



「イリス、いけるか?」

「当たり前……やってやるわよ」


 イリスが目を鋭くして杖を構え

 俺は両手に“光”を宿すようなイメージで戦闘態勢をとる。


 あざがチラチラと光ってくれているおかげで、力が漲っているような気がした。


「フン……この私に挑むとは、無謀なガキだ」


 闇の王が一瞬で縮地したかのように俺の目の前に迫り

 漆黒の拳を繰り出してくる。


 鋭い衝撃が襲う――

 それを俺はギリギリのところで光の防壁を形成し、なんとか受け止めた。


 ビリビリと腕が痺れる。


「は……すげぇパワーだな……」

「これで万全じゃないというんだから笑えるぜ……!」



◇◇◇



 イリスが側面から雷撃を放ち、一気に畳みかけようとする。


 しかし闇の王は片手で軽々とそれを受け流す。

 重苦しい爆音が響くが、一切動じる様子はない。


 だがイリスもすかさず距離をとって、再度魔力を練り始める。


 俺もその隙に闇の王の背後を取ろうと移動し

 右手に最強の衝撃波をため込む。


「喰らえ……っ!」


 青白い光の柱が一直線に闇の王の背中へ突き刺さる。


しかし――


「フフッ……そんな程度か……!」


 闇の王の体は漆黒のオーラに覆われ

 まるでダメージが通ったようには見えない。


 玉座の周囲から集めた闇のエネルギーで肉体を補強しているのか

 耐久力が桁違いだ。



◇◇◇



「これはヤバいな……イリス、もう少し火力を上げられないのか?」

「言われなくても分かってるわよ!」


 イリスが激情を込めて再度魔法陣を展開。


 黒雷がうねりを上げ、一点集中で闇の王へ撃ち込まれる。


 ズガァン!! 


 ホールが震えるほどの大爆発が起こり、闇の王が一瞬怯んだかのように見えた。


 その隙を見逃さず、俺は最大級の衝撃波で追撃を加える。


「はああああっ!」


 光の拳を叩き込み、今度は闇の王が低く唸るように顔をしかめる。


 さすがに効いたらしい。


「小癪なガキ……だが、まだまだ……!」


 闇の王が手を振るうと、ホール全体が漆黒の渦に覆われる。


 周囲にいた配下たちも巻き込む形で“闇の盾”のような巨大防壁が形成され

 俺たちを威圧する。



◇◇◇



 あまりの濃い闇エネルギーに、視界が濁ったようになる。


 が、ここで後ろに引ける状況じゃない。


 俺はあざから来る神秘的な光を再度呼び起こし

 身体中に光のオーラをまとわせる。


 全身が熱くなり、さらに能力がレベルアップしたように感じた。


 イリスも「これなら……!」と目を輝かせているように見える。


「さあ……終わらせるぞ!」


 再度、闇の王の黒盾に接近する。

 凄まじい邪悪のオーラが皮膚に突き刺さるようだが、俺の光がそれを押し返す。


「ちっ……“*の王”め……!」


 闇の王が口にしたそのワードに一瞬「?」となるが

 俺には意味がわからない。


 でも構うもんか! 


 全力で、この男を叩き潰すだけだ。



◇◇◇



 拳と盾が激突し、轟音がホールを揺るがす。


 凄まじい力比べ。


 俺の光と闇の王の漆黒が入り混じり、火花を散らすように炸裂する。


 イリスが後方から強力な雷撃でサポートし、遂に黒盾にヒビが生まれた。


「ぐあっ……! 

 まさか、万全でないとはいえ、私がここまで押されるとは……!」


 闇の王が苦悶の表情で膝をつく。


 すかさず俺は頭上から渾身の一撃を放つ。


 ドゴォォォンッ!!!


 闇の王の身体が床に叩きつけられ、濃密な黒いオーラが四散する。


「はっ……どうだ、参ったか……?」


 息を切らしながらも、俺は闇の王に問いかける。


 すると、血を吐くような声で「ぬうぅ……!」と唸り

 立ち上がりかけたかと思いきや、ズルッと再度膝をつく。


「くそ……我が万全であれば……貴様らごとき……!」


 悔しげな視線を俺とイリスに向けるが、そのまま闇のオーラが剥がれ落ち

 身体が限界に達したようだ。


 最後に何かを呟くように唇を動かすが、音にならないまま意識を失う。


 「「「御意!」」」


 最後の言葉を聞き取れたのか周囲の配下はこちらを睨みつけながらも

 逃げ出していく。



◇◇◇



 ホールはしんと静まり返り、闇の王が倒れ伏している。

 肩で荒い呼吸をする俺とイリス。


 しばらくの間、静寂が続く。


「ふう……勝ったのか? これ……」

「たぶん、ね……。さすがにもう動けないでしょ」


 イリスが杖を収める。

 俺も光のオーラを消し、力を抜いた。


「はは……何とかなったな。闇の王が万全じゃなかったおかげか」


 それでも激戦に変わりはない。


 俺の右腕のあざは、今も淡く光を放ちながら鼓動しているようだ。


 こうして、ドラマチックな最終戦は幕を下ろした。


 闇の王は一命を取り留めたのか、それとも完全に消え去ったのか――


 詳細はわからないが、とりあえず集落を脅かす脅威は消えたと見ていいだろう。

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