第30話:帰還の道が開かれる…が!?


 「これが……転移魔法陣なのか?」


 闇の王が倒れ伏したホールの奥

 台座の上にうっすらと輝く魔法陣の痕跡が見つかった。


 何らかの儀式を行うためのものらしく

 闇の力を使いこなして世界を越えることができるという。


「でも闇の王を倒しちゃったからか、魔力が乱れてる……」


 イリスが魔法陣を調べながら、苦々しくつぶやく。


「この魔法陣、私たちがもともといた世界につながるかもしれないけど

 安定してないわね」


「それでも、帰還の道の手がかりは欲しい。なんとかならないかな」



◇◇◇



 俺は少し焦燥感を覚えながら、光の紋様が浮かぶ右腕を見つめる。


 もしかすると

 この力で魔法陣を無理やり安定させられたりするんじゃないだろうか?


 あまり根拠はないが、そう信じて光を注ぎ込むように意識する。


「ちょっとレイ! 下手に触ったら暴走するかもしれないでしょ!」


 イリスが止めるのを無視し、俺は陣へ手をかざす。


 すると、ほんの一瞬だけ輪郭が鮮明になり

 闇色だった地面に薄い光の模様が走った。


「おお……なんか、いい感じに整ってきたぞ!」

「やばいわ……本当に発動しそうじゃない?」


 周囲に風が巻き起こり、闇のホールが一気に嵐のような気流に包まれる。


 床の魔法陣が光を増し、縁取りが激しく輝きだした。


 俺の右腕のあざもギュンと反応するように光っている。



◇◇◇



「やば……これ、制御できるの?」


 イリスが眉をひそめ、必死に杖で魔力を整えようとする。

 俺は光の力で補助しようとするが、もはや流れを止められない勢いだ。


「どうにかなる……といいんだが……うわあああっ!!」


 床から強い引力が発生し、俺の身体が引き込まれていく。


 イリスが「ちょっと!」と叫んで腕を掴むが、勢いは止められず

 イリスもろともに光の渦へ呑まれていく。


「くっ……なんなの、この転移魔法陣……! やけに不安定じゃない!」

「俺だって知らねえよ……でも、このまま地球に戻れるかもしれないぞ!」


 一縷の望みを抱きながら、意識が遠のくような浮遊感に包まれる。

 同時に、ホールの床や壁が崩れ始め、空間そのものがねじ曲がっていく。


「待って……私は準備が……!」


 イリスの声が空間の歪みとともに消えかける。


 もう叫ぶ余裕さえない。



◇◇◇



 視界が白く染まった瞬間、激しい落下感が襲い

 俺とイリスは意識を失いかける。


 どうやら闇の王の本拠地にある転移魔法陣は不完全だったらしく

 いつ暴走してもおかしくない状態だったらしい。


 それでも、俺たちはこの力に賭けてしまった。


「……どこに行くんだ……地球か、それともまた別の……」


 朦朧とする頭の中で、それだけが繰り返し渦を巻く。


 右腕のあざがチラチラと光っているのをうっすら感じるが

 その先の運命は誰にもわからない。


 俺たちは深い闇の中に落ちていった。



◇◇◇



 ――そして、薄れゆく意識の中で思う。


 「どこでもいいから……無事に着地してくれよ……! 」


 こうして闇の王との最終決戦は終わりを告げ

 俺たちは新たな転移に巻き込まれた。


 帰還の道が開かれるかと思いきや、まだ未来は混沌とした霧の中。


 次に目を覚ます場所がどこなのか……それは、俺自身にもわからないまま。

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