第17話:真相はまだ遠く――だが日常は騒がしい!


 朝、俺――黒辻レイはリビングに降りると

 なぜか父さんがソファでゲームをしながら声を張り上げていた。


「くそ……魔界最強のボスは伊達じゃねぇな……」


 そこには派手なパッケージのファンタジーRPGが起動したまま。


 父さんは真剣な顔でコントローラを握っている。


「また夜更かししてゲームしてたのかよ……父さん、大丈夫?」

「おう、レイか。魔王がこんなに強いなんて聞いてねえよ。

 オートバトルじゃ勝てねぇ……」


「そこは手動で頑張れって話だろ」


 俺が呆れたようにツッコむと

 父さんは「めんどくせぇんだよ」とぼやきながら、また集中を始めた。


 まるで“魔界”だの“魔王”だのを自分が一番よく知ってるかのような口ぶりだが……

まあゲームだし、本人の妄想だろう。


 母さんはキッチンでエプロン姿。


「あらレイ、朝ごはんできてるわよ。

 ヒメさんが手伝ってくれたから、ちょっと豪華にしてみたの」


「お、いいね。……ん? なんかやたらと野菜が大きいけど」

「ふふ、ヒメさんが“おまじない”だとかで栽培した野菜らしくて……

 本当に大きいの。たくさん食べてね」


 野菜を育てるのに“おまじない”って何だよ、とツッコミたくなるけど

 うちはいつもこんな調子だ。


 俺は父さんや母さんを「ちょっと変わってる」と思いながらも

 深く考えたことはない。


 でも、こうして賑やかに過ごせるのはありがたい。



◇◇◇



 その頃、キッチンの隅。


 母さんがこっそり携帯を取り出して、小声で誰かと話している。


「はい……今のところ問題はありません。うちの子も無事ですよ……

そうですね、ガイさんがまったく動く気配ないから、しばらくこのままで……」


 どうやら内緒の連絡らしい。内容は不明。


 母さんはやや深刻な表情を浮かべているが

 キッチンを出るといつもの柔らかい笑顔に戻る。


 俺にはまったく意味が分からない。



◇◇◇



 日中は学校で楽しいことが盛りだくさんだ。


 クラスメイトがモモと仲良くなろうとランチに誘ってくれるし

 帰宅中に「ねえねえ、レイとモモって付き合ってるの?」と冷やかされる。


 モモは顔を真っ赤にして「ち、違います!」と慌てるが

 それを見た女子たちが「わー可愛い!」と盛り上がる。


 俺は「あー、やれやれ」と苦笑いしつつ、普通の学生ライフを満喫。


 転生なのか転移なのか、よくわからない力を持つ俺が

 こんな当たり前の日常を送れるなんて幸せだ。



◇◇◇


 夜になり、家族全員で夕飯だ。


 俺とモモがにぎやかに学校の話をしていると

 母さんは「よかったわねえ」「うんうん」と微笑んで聞いてくれる。


 ヒメさんも妙に満足げな表情だ。


「ふぅ、今日も平和だったな」と俺は口走る。


 その瞬間、母さんがわずかに目を伏せて「そうね、平和が一番だわ」と返す。


 内心では何か抱えているに違いない。

 俺もハルじいちゃんがいてくれたらと思い、少し表情が陰る。


 こうして、俺にとっては“なんでもない日常”が続いていく。


 ――しかしその裏で、大きな影が徐々に迫っているのだ。

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