第2話:勇者の力? 俺が無双だと!?
体がガクンと揺れ、地面に倒れ込んだ衝撃で目を開く。
「いってえ……! ここ、どこだよ……」
見上げると、曇り空が広がっている。
ビルも道路も見当たらない。
まるで中世ヨーロッパの……いや、それっぽい何かの世界?
建物のレンガらしき残骸があちこちに散らばって、焦げた土のにおいが鼻を突く。
「……夢、じゃないよな」
どうやら俺は、さっきのローブ男に変な光で包まれて
この見知らぬ場所に飛ばされたらしい。
立ち上がろうと足を動かした瞬間、荒れ果てた路地の奥から声が聞こえる。
「なんだァ……こんなとこに人間がいたのか?」
振り向くと、ぼろい鎧を着て武器を持った男が三人ほど、こっちを睨んでいる。
顔は汚れ、血走った目つきでニヤリと笑っていた。
すぐにわかった。彼らはいわゆる“あぶない連中”だ。
周りに他の人影はない。つまり、俺一人。
やばい。
「おい、新手の冒険者か? なら金目のもの全部置いてけ!」
「けっこういい服着てんじゃねえか。全部置いていけよ!」
男子高校生の制服を見て、物珍しそうに罵声を飛ばす。
明らかに悪役ムーブ全開だ。
逃げるあてもない。
こういう展開、俺が読んでる小説とか漫画ではよくあるけど……
実際に襲われるって恐怖しかない。
「ま、待って! 俺、金なんて持ってないんだって!」
「嘘つけ! ほら、大人しくしろ!」
男たちがずかずかと迫ってくる。
これは最悪な状況だ。
心臓がバクバク鳴る。
やめろ、来るな……!
必死で腕を振り払おうとした瞬間、俺の右手から青白い光が舞い上がった。
「……え?」
俺が一番驚いているとき、相手の男たちはさらに大きく目を見開いた。
「な、なんだその光は……!」
「こいつ、ただもんじゃねえぞ!」
腕を振ると、頭の中に勝手に“技の使い方”みたいなイメージが降りてきた。
いつだって、教わった記憶なんてないのに……なぜか体が勝手に動いてしまう。
「はああっ!」
不意に声を上げると、光が剣の形を描き
それがそのまま敵の男たちに向かって突き刺さるように伸びた。
男たちは「うわああっ!?」という悲鳴を上げ
武器を落として地面に尻もちをつく。
「な、何なんだ……お前は!」
「や、やめてくれ!」
完全に腰が抜けたのか、彼らは後ずさりして逃げていった。
……俺はただ右手を軽く構えただけだ。
なのに、あんな光の剣が出せた。
まさか、これが“チート能力”ってやつ……?
本当に俺は死んじまったのか……?
頭がぐちゃぐちゃになりそうだ。
「すごい……あなた、勇者様ですか!?」
声をかけてきたのは、痩せた身体の青年だった。
どうやら隠れて様子をうかがっていたらしく、おそるおそる近づいてきた。
「い、いや、勇者って言われてもピンとこないんだけど」
「先ほどの光の剣……普通の冒険者には無理ですよ!
危ないところでしたが、本当に助かりました!」
青年は心から安堵したように笑みをこぼす。
どうやら、さっきの荒くれ者たちにずっと脅されていたらしい。
自分の意思と関係なく出てきた力だが、結果的には彼を救えた。
「そう、だったのか。とりあえず、怪我はない?」
「はい、おかげさまで……。ありがとうございます、勇者様!」
俺が何をしたか、正直よくわからない。
でも、困ってる人が少しでも助かったなら、悪い気はしない。
さすがに「勇者様」呼ばわりは恐縮だけど……
ここでその正体を否定しても状況は変わらなさそうだ。
「はあ……とりあえず、この場所について教えてもらえるか?」
「もちろんです! ここは王都の外れで……」
青年が必死に説明を始めてくれるが、俺の頭は半分パンクしていた。
異世界? 魔法陣? 勇者?
まさか、父さんの“魔王”話や、母さんの“聖女”話が本当だったなんて……。
そしてハルじいちゃん、ヒメさん、みんな一体どうなってるんだ?
――考えても仕方ない。
今の俺にできるのは、この意味不明な世界で何とか生き残ることだ。
それに、もし本当に“勇者の力”があるなら
この力をちゃんと制御できれば、家に帰れるヒントも見つかるかもしれない。
「よし、わかった。とにかく、何か手がかりを探したいから町に行ってみるよ」
「はい、できる限り僕もお手伝いします!」
こうして、俺はこの世界で初めての“仲間っぽい人”を得た。
全然わからないことだらけ。
でも、なんだかんだで悪くないスタート……なのかな?
とりあえず、この謎の世界で生き抜いて、必ず地球に帰ってやる。
そう強く誓いながら、俺は青年と一緒に町のほうへ歩き出した。
――それが、この無茶苦茶な“異世界冒険”の幕開けだった。
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