第3話:謎の少女を救え! 突然の悪役襲来


 「お兄さん、こっちです!」


 青年――俺がこの世界に来て最初に助けた人が、必死な顔で俺を呼んでいる。


 名前はまだ聞いていない。


 とりあえず命の恩人ってことで、“お兄さん”と呼ばれているようだ。


 ちょっと照れくさいけど仕方ない。


 ここは王都の外れ、荒れた路地裏。


 俺が“謎の力”で襲ってきた男たちを追い払ったあと

 地元の人たちが集まってきた。


 その中で、ひときわ慌てた様子でこちらに走ってきたのがこの青年だ。


「何かあったのか?」


「大変なんです! 治療所に運び込まれた娘さんが、人質みたいになっていて……  

 悪い連中が『金を出せ』って脅してるんですよ!」


「人質……? そんなの、俺には関係……」


 実際、今のこの町には“まともな騎士団”とか“兵士”がいないらしい。


 国の内部がゴタゴタしてて、王都近くでも治安が悪化してる。


 そこに漬け込んだならず者たちが、弱い人間を虐げているってわけだ。


「放っておくわけにはいかないだろ。案内してくれ」

「はい! この先です!」



◇◇◇



 案内された治療所は、こじんまりした木造の建物だった。


 入り口でガラの悪い男たちが何人も威圧的に立っている。


 彼らの後ろには一人の少女が倒れ込むように座らされていた。

 長い髪が乱れていて、顔色が悪い。


 ケガをしているのか、腕に包帯が巻かれている。


「おい、今度は何だ? また邪魔者か?」


 男たちは不穏な目で俺を見下ろしてくる。

 くそ、いかにも悪役だ。


 少女を人質にしているみたいだけど、その姿はひどく苦しそうだ。


 明らかに早く治療が必要なのに、まるで盾にしているかのような態度だ。

 周囲の町人は怖がって何も言えずにいる。


 だが、せめて俺くらいは何かしなきゃ。


「その娘さんを放せよ。見てわからないのか? ケガしてんだろ!」

「うるせえ。金が払えねえなら治療なんてさせるわけねえだろ」


 男たちは挑発するようにニヤつく。

 完全にやりたい放題だ。


 ――頭にきた。


 俺は右手をそっと握ってみる。


すると、前に使った時と同じように、微かな光がじんわりと伝わる気がした。


「……悪いけど、その人は助ける!」

「へっ、聞いたか、こいつ? なんか光らせて威嚇してるぜ!」

「ただの小僧だろ?」


 瞬間、右腕からあの光が現れた。

 男たちが驚いたようにひるむ。


「やられる前にやる……ってのは好きじゃないけど」

 俺は少しだけ前かがみになり、両脚に力を込める。


「ふっ!」


 次の瞬間、自分でも信じられないほど素早く男たちの懐に入り

 手刀のように光をまとった右手を振るう。


 すると、衝撃波みたいなものが走り、男たちはまとめて吹っ飛んだ。


「ぐああっ!」

「な、なんだこいつ!?」


 あたりに土ぼこりが舞う。男たちは地面を転がりながら呻いている。


 どうやら、あの“悪党連中”にはもう戦意が残っていないみたいだ。


 完全に腰が抜けたようだし、ここで暴れる度胸はないだろう。


「う、嘘だろ……一瞬で……」

「お兄さん、すごい! 見たことない速さだ!」


 周囲の町人たちが一斉に歓声を上げる。

 まるで“ヒーローでも現れた”みたいに興奮している。


 恥ずかしいけど、まあ悪い気はしない。

 そのまま俺は、倒れ込んでいた少女に駆け寄る。


「大丈夫か?」

「……あ、ありがとう……」


 彼女は弱々しく答える。


 声がか細いけど、はっとするくらい透き通った瞳をしている。

 名前は……今は聞かないでおこう。


 とにかく治療が先だ。


「誰か、医者は……!」


 うろたえていると、先ほどの青年と治療所の先生らしき人が走り寄ってきた。


「すぐに処置します! あなたは外で待っていてください!」

「お願いします!」


 こうして少女は治療所の奥に連れて行かれた。

 大丈夫……だよな? 俺がそこまで言う資格もないが、死なせたくはない。



◇◇◇



 後になってわかったことだが、彼女は外の荒野で魔物に襲われたらしく

 逃げている途中でケガをしたらしい。


 悪党たちは治療費を巻き上げようと無理やり連れ込み

 さらには地元民を脅していたとか。


 怒りしか感じないけど、とりあえず厄介者は撃退できた。


「あなたのおかげで助かりました!」

「まさか、こんなに強い人がいるなんて!」


 周囲から感謝の言葉が飛び交う。


 俺の手には確かに“力”が宿っている。


 ここまで露骨に感謝されたのは、生まれて初めてかもしれない。


「でも……一体この娘は何者なんだろう?」


 ふとそんな疑問が浮かぶ。


町の人も名前を知らないらしく

 “どこかのお嬢様風”とか“気品がある”とか噂してるだけだ。


 もしかしたら、すごい秘密があるのかもしれない。

 とにかく、治療が終わるまで待つしかない。


 そうして、俺は治療所の入口でぼんやり立ち尽くす。


 まだ始まったばかりの異世界ライフ。


 俺がしようとしていることは、ち正しいことのか?

 不安だけど、まずはあの娘が目を覚ますまで見守ろうと思う。


 そして、少女が息を吹き返したとき──


 俺の運命はさらに大きく動き始める。

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