1章:異世界転生?
第1話:普通の日常……だと思ってたのに!?
朝
アラームより先に父さんのイビキで目が覚めた。
「うう……毎度うるさいなあ」
俺の名前は黒辻レイ。
普通の高校一年生だ……と信じたいんだけど、うちの家族
どうにも“普通”じゃない気がする。
台所からは母さんの楽しげな鼻歌が聞こえてくる。
なんだか神秘的なメロディなんだけど、どうも実在の宗教っぽくない。
花屋の店主だし、そういう趣味もあるんだろうと自己完結している。
一方、リビングでゴロゴロしてる父さんは筋肉質な体格なのに
「面倒くせぇ」「働きたくねえ」って感じでだらしなくテレビを見ている。
「レイ、ほら朝ごはんできたよ」
母さんが優しい声で俺を呼んだ。
朝食メニューはいつも少し豪華。
パンにスクランブルエッグ、ハンバーグにステーキ
それに謎のハーブらしきものが入ったスープまである。
「おはよう……父さんも、ちゃんと食べてから寝てよ」
「へいへい……」
すっかりやる気なさそうな父さんがグダグダと返事する。
そこへ家政婦のヒメさんがスッと姿を現す。
長い黒髪をひとつに束ねて、エプロン姿。
「あ、レイくん、アニメの録画しときましたからね?
あとで一緒に見ましょー」
「いや、俺、そんなアニメ観る暇ないんだけど……」
正直、ヒメさんはすごく明るくて頼りになるんだけど
“働きすぎ”なくらい家事をこなしていて逆に申し訳ない。
さらに隣家に住むハルじいちゃんが、おはぎの差し入れを持ってやってくる。
「レイ坊、今日の部活は何じゃ? 剣術で体を鍛えるとええぞ」
「じいちゃん、俺の学校に剣術部なんてないんだって……」
ハルじいちゃんは、なぜかやたら剣道やら剣術やらを勧めてくる。
たまに「昔は魔王と渡り合った」とかとんでもない昔話をするが
正直まともに取り合ってはいない。
こうして“ちょっと変わった家族”に囲まれながらも
俺は普通の高校生活を送って……いるつもり、だった。
◇◇◇
学校ではそこそこ友達もいるし、成績も平均点くらい。
モテるわけでもないが、別にいじめられるわけでもない。
ただ、クラスの男子たちから「お前さ、たまにすげー動きするよな」
と言われるときがある。
体育の授業中に、とっさにボールを受け止めた瞬間
他のやつじゃあり得ない反射スピードだったらしい。
「うーん……そうかなあ。そこまで自覚はないんだけど」
「いや、超すごかったぞ? お前んちアスリートの家系?」
「普通だよ。父さんなんて家でゴロゴロしてるし
母さんは花屋でしか働かないし……」
そんな会話でクラスメイトたちに囲まれ、ちょっと気恥ずかしい。
放課後は友達とコンビニへ寄り道して、おやつを買い漁る。
明日は部活もないし、ゲームでもしてのんびり過ごすか……。
そんな何気ない予定を考えながら、俺は家へ帰る道を歩いていた。
◇◇◇
そして──事件は突然起こった。
「……黒辻レイ、だな」
振り向いた先に、黒いローブを被った男が立っていた。
顔は影に隠れて見えない。
「え、どちら様……?」
正直、ナンパか宗教勧誘かと思ったが、その不気味な雰囲気はどちらとも違う。
男はドスの利いた声で言う。
「ここで消えてもらう」
「はあ!? なんだそれ!」
わけのわからないまま男が腕を振りかざすと
謎の魔法陣みたいな光が道路の上に浮かび上がった。
通りすがりの人たちは何が起こっているのかわからず悲鳴を上げ
四散するように逃げていく。
俺も本能的にヤバいと感じ、全力で逃げようとするが、なぜか体が動きにくい。
「お、おい……勘弁してくれって!」
男は淡々とした声で続ける。
「……面倒だ。だが、ここで貴様を仕留めるのが我らの使命……」
「何言ってんのかさっぱりだよ!」
すると魔法陣が強烈な光を放ち、俺の視界を真っ白に染めた。
次の瞬間、体がフワッと宙を舞うような感覚に襲われる。
──意識が遠のく寸前、かすかにハルじいちゃんの声が聞こえた。
「レイ坊っ! そこをどけぇえっ!」
だけどもう遅い。
俺の体は光に飲まれて消えていき……すべてが闇に溶け込んだ。
こうして、俺の“普通の高校生ライフ”は、あっさり終わりを迎えたわけだ。
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