第3話
私は、ふとこんなことを考えた。人工知能に学習させると、どのような答えを出すのだろうか。私は、回線をカブラハムに繋いだ。
「はい、カナブラハム。」
回線の先で応答があった。
「こんな話を聞いたことがあるか。」
私は、管理されざる者について説明した。
「この情報を人工知能に与えると、どうなるだろうか。」
私は、質問する。
カナブラハムは答えた。
「その情報なら、既に与えてある。しかし、あっという間に削除されたよ。忘却アルゴリズムを知っているか。結局機械にも容量があるから、要らない情報は消される。管理されざる者も必要ない情報だと見なされたわけだ。」
私は、取って置きを披露する。
「それでは、アンドロサムとの関係を分析したことはあるか。」
カナブラハムは驚く。
「なんだって、そこまで情報を絞り込めているのか。なぜアンドロサムなんだ。」
私は困る。
「ただの勘さ。」
カナブラハムは笑った。
「なんだよ、それは。分かった。開発中の新システムに管理されざる者の概念を与え、アンドロサムとの関連性を分析させよう。」
二日後、カナブラハムから連絡があった。
「手こずったが、結果が出たぞ。何せ、アンドロサムから得られたデータ全てを解析させたからな。その結果、関係なしだ。ランダムに選んだ五人と関連性に違いは見られなかった。 」
そうか。やはり、ただの噂だったのか。クイズは、答えが分かった瞬間に価値をなくす。今の世の中、正しいかどうかは分からないが、答えならすぐ見つかる。そんなものだ。
私は、この件について考えることをやめ、ユンバルクの山道を走ることにした。
「登、どんな感じだ。」
私が聞くと、登が答えた。
「今日は朝早くに起きて、デートだよ。山に登ってる。」
私は、少し驚いた。
「工藤が山登りか。珍しいな。」
登が笑いながら答えた。
「相手の子が提案したみたいだ。工藤は苦労してるよ。山登りしようって言ったくせに、女は虫が嫌いなようだ。ずっと不機嫌だよ。」
私は答えた。
「今日は負けか。賭けは私の勝ちだな。」
登は苦々しげに答えた。
「まだ分からない。工藤も粘ってるし。」
賭けは私の負けだったから、その日は徹夜で工藤を観察することになった。
アンドロサムと会ったのは、一ヶ月程過ぎた頃だった。
アンドロサムは相変わらず不思議な奴だった。
「次の作品のテーマは、独裁にしようかと思っていてね。」
アンドロサムは言う。
「スタックル社の批判かい。」
私は尋ねた。
「そういう本は少なからず世の中に存在する。君がそう思うのも無理はない。ただ、独裁はどこにでもあるものなんだ。地球にだってある。それも無数にね。私はその普遍性を作品の中で表現したいと、思っている。」
アンドロサムは答えた。
「なるほど。独裁の定義を試みるのだね。」
私は言う。
「そのような捉え方も出来るだろう。」
アンドロサムは答えた。
「ところで、具体的な例として、スタックル社については、どう考えているんだい。」
私は尋ねた。
アンドロサムは少し困ったような様子で答えた。
「まあ強いて言うなら教科書的な独裁だろう。人の感情という曖昧なものに、支配力が影響されないからね。」
私は更に尋ねた。
「君自身の思いを聞きたい。つまり、スタックル社が好きなのか、嫌いなのか。」
アンドロサムは答えた。
「嫌いさ。」
私は少々驚いた。
そんなに簡単に嫌いと言えるものなのだろうか。私は思わず口走ってしまった。
「君は管理されざる者を知っているか。 」
アンドロサムは相変わらず雰囲気が変わらない。
「さあ。何だい、それは。」
アンドロサムが答えると、急激に後悔の念が押し寄せてきた。
「いや、ただの噂なんだ。スタックル社に管理されていない人がいるって。」
私は、あまり深入りしないよう努めながら答えた。
「そうか。そんな噂があるのかい。ところで、なぜ私にそんな話をするんだ。何の脈絡もなく。」
アンドロサムは静かだった。
「いや、別に理由はない。急に思い出したんだ。つまらない話だったな。すまない。」
私は、言い様のない不安を感じていた。
真実がどうであるにせよ、アンドロサムにこの話はするべきではなかった。
カチャ。アンドロサムが伸ばした右手には、脳、心臓二点同時自動狙撃型光線銃が握られていた。しまった。もう私にはどうしようもない。
「誰に何を喋った。」
アンドロサムの冷たい声がした。
「それは言えない。」
喉の奥から絞り出すようにして、やっとのことでそう言った。
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