第20話 冷やし中華に屈服する魔神、ンゴ

SIDE ギーガ


調停神オルダによって創られた世界『オルダ』。

その世界を束ねる2つの存在を産み落とす。


再生と平和の神『ツイフェ』。

破壊と魔力の神『ギーガ』。


わしはこの星のために様々な貢献をしてきたと思う。

神の力を分け与える『スキル』

超常現象を意思の力で起きる『魔法』

そして危険と隣り合わせだが、莫大な利益をもたらす『ダンジョン』

これらはオルダに直接懇願し、わしが星の民に、もしくは魔物たちへの試練と希望になるはずであった―――が、


ギーガ「ツイフェ!貴様なんのつもりじゃ!!これはわしの管轄だ!なぜ貴様がしゃしゃり出る!」


ツイフェ「だってぇ〜わたし〜豊穣神だし?ってかさ、管轄って何よ。わたしも神様じゃん?スキルとか魔法とかダンジョンとかの方が面白そうじゃん!あんたばっかりズルくない!?」


ギーガ「この腐れビッチが舐め腐りおって!!貴様はオルダ様に与えられたのは生物の誕生と実りだろう!!それを勝手にスキルや魔法を創りおって、しかもわしの力を流用してだぞ!馬鹿にしておるのか!それどころか人族にばかりスキルを与えて!魔物や植物も星にすむ生物ぞ!神のくせに自分達と同様の姿をした生物にのみ祝福を与えるとは何たる欺瞞ぎまん!?」


ツイフェ「いちいちいちいちうるさいッ!!私はオルダ様に聞いてオッケー貰ったし!!いい加減にしてよね!!」


ギーガ「な、なんじゃと!?」


直ぐ様真相を確かめにオルダ様の居る高次元へ足を伸ばした。

当時のわしは高次元へ至るためには途方もない時間が経つのを忘れていた。

オルダ様に問い合わせた結果すぐに嘘だと気づいた時にはもう遅かった。

わしがこの星に戻ってきた数十年たった時には、魔獣や、姿と褐色の人族、雄大な植物生物達が悪とされ駆逐されようとしたいびつな世界が出来上がっていたのじゃ。

ツイフェが自分の気に入った生物にわしの力でスキルを与え、さも自分が祝福を与えたかのように見せ、かつ気に入らない生物たちを追いやり、奴隷にし、家畜以下の扱いをしていた。

怒髪天を超えたわしは7つの感情からわしの分体を世に放ち、わし自身も暴れ回った。

ツイフェなどの言うことを信じたわし自身への怒り、ツイフェを創り出した創造神への怒り、それらを突きつけるが如く立ちふさがるもの全て滅ぼし、世を焼き尽くした。

地形が全て平らになった頃にツイフェの四肢を引きちぎり、星の辺境へ封印し、わしの分体に守らせている。

それでも【勇者召喚】などという禁呪で異次元の人族を拉致し、わしや分体を滅ぼさんとする醜悪な執念には流石のわしも恐れ入った。

しかし【勇者召喚】とは魔力…すなわちわしの力の元素を過剰に使い、生態系や自然現象に

深刻な被害(ハリケーン、津波、噴火など)をもたらすものじゃ。

更に過剰な力を得た平和な世の人族など、世にどの様な影響を及ぼすかなど知れている。

直ぐ様排除すべし。

力を持って力を支配すべし。

今回も同じじゃ。

そう、思っていた。

我が想像主すら超える崇高な供物、


『ヒヤシチュウカ』に出会うまでは…



――――――――――――



わしのテレパシーを受け付けぬ分体、怠惰のネクロパンサーがわしの近くに来ていたのを感じたのはついさっきじゃ。

またしても【勇者召喚】などという禁呪を行った文明を滅ぼすべく、魔族(かつてツイフェに迫害された者たちの総称)領の王であるわしの分体、魔王サターン・シムノーンと共に今回の人族の長(国王)が居るという都市を景気づけに焼け野原にするその道中であった。

わしの瞬間座標移動魔法テレポートで顔を出してみた。

驚いたことにわしが抹殺を命じた勇者召喚者と共に居る―――いや、それより…なんと美しい料理だ。

ハッキリ言って争いばかりのこの世界の食事は美味しくない。

目の前のソレが明らかに異世界の物だと気づくと、食事の必要ないわしの口内からよだれが溢れ出る。


ギーガ「おっと、驚かせてすまんかったなぁ。わしはこの先の『ギュウシー領』で商人をしているギィじゃ。それでわしの後ろにいるこのいけ好かない若造が―――」


咄嗟に嘘を吐き、念話で話を合わせるようにサターンに念話で促してしまった。

ビネガーの強い匂いがするというのになぜが心がソレから離れない。

生まれ出てこれほど心が動いたのはツイフェへの怒り以来か?

この力があのツイフェでなくオルダのものであることも気になる。

いや、もう頭の中はソレを…『ヒヤシチュウカ』なるものを食べることしか考えていなかった。

神が思考と行動を完全に支配されるなどと思えばそれ程恐ろしい事は無いのだが、既に箸なる物の使い方をネクロパンサーの経験から会得し、割り箸とやらで麺を

持ち上げる。

箸から伝わる柔らかでハリがあり、手からでも理解るコシの強さ。

注がれる日の光を反射するソレはスープに浮かぶ食用の油。

緑と赤の美しい食材と、少し汚いような黒く細長い食材と一緒に口へ―――





幾度となくこの星を見てきた。

生物が生まれ、営みがあり、別れと共に新たなる希望が生まれ出る。

力では出来ない様々な命の素晴らしさ、その尊い物語が、わしの口の中いっぱいに広がっている。

シャキシャキとみずみずしく爽やか味わいの緑の野菜。

噛んだ瞬間に甘みと旨味が口を支配する赤い野菜。

そして圧倒的ポテンシャルと香りと風味をかもす黒くて細い物。

個々の個性を引き立て自ら存在感もアピールする食感最高の麺。

そしてそれらをまとめ上げ至高の存在へと消化する酸味・コク・適度な甘みのスープ。

酸味を優しく包み込み口に安堵の安らぎを与える細切り卵焼き。

噛むほどに肉の味わいを広げ、新たな発見を与える燻製肉。

柔らかな触感と魚の旨味が甘酸っぱいスープと相性抜群の茹でた蟹肉のような魚のすり身。

美味い…いやむしろ美しい!

素晴らしい!かつてこれほどの感動は味わったことがない!

なんだこの供物は!一体どれほどわしを喜ばせれば気が済むのだッッ!!!


―――あぁ…あぁ……もう無い、わしの素晴らしき命の物語…


どみん「おじいちゃん、凄い食べっぷりだったンゴねぇ。別料金の銅貨5枚になるけどおかわり作るンゴ?」


あっ!?あっっ!?あ゛あぁーーー!!我が偉大なる創造神の使い!―――いや、あの様な愚物ツイフェを世に放つものなどもはや創造主などではないわ!!

この長い時間を生きてようやく理解した、わしの神生は『ヒヤシチュウカ』様に出会うためにあったのだ。

わしはこの御方どみん様には敵うことはない。

『ヒヤシチュウカ』様を提供されるどみん様を滅するなどなんとおこがましい。

この御方に服従するのだ、しなければならない!!


ギーガ「じゅるじゅるじゅる!ガツガツガツ!!ごっごっごっ!!んほぉ〜!!このからしという調味料を付けて、紅生姜なるピクルスを入れて、さらに世界を広げるのか『ヒヤシチュウカ』様!!」


どみん「(冷やし中華様?)気に入ってもらって良かったンゴ。そんなに食べてもらえて嬉しかったンゴよ!」


ギーガ「おぉ…偉大なる『ヒヤシチュウカ』の伝道師様。わしは懺悔せねばなりませぬ。わしは偉大な伝道師様をあろうことか殺しに来たのです。勇者召喚によって異界から訪れた貴方様を異物と勘違いしたこの愚かな俗物にどうか裁きをお与えください―――」



―――SIDE どみん



困るンゴーーー!?年老いたおじいさんに土下座させるのはどんな理由があっても心が痛むンゴよ。

ンゴはじいちゃん子だし。


どみん「頭上げてンゴ!殺すとか物騒だけど、その感じだともうその気も無いンゴよね?」


ギーガ「それでは私の気がすみません。貴方様が望むのであれば―――美女酒池肉林、全人類の平伏、世界の全てを貴方様に捧げましょう!」


どみん「そんな面倒くさそうなもの要らないンゴ。そんな事より商人さんが健康で、またンゴの料理を美味しく食べてくれればそれで十分ンゴ!」


ギーガ「は、はぁああ↑ああん!!貴方様こそ調和の象徴でございます!想像を超えた偉大なる至高に酔いしれておりますのじゃ。せめて、せめて神のギフトを授けさせてください!!」


するとピカーっとンゴの全身が光りだした。

光が収まるとスキルボードが現れ、そこには【魔神の寵愛Lv∞】とあった。


ギーガ「【魔神の寵愛】は〈魔〉そのものです。この星に居る限り無限に魔力を扱うことが出来、更に全ての魔法を無効化することが出来ます」


ミィア「にゃーーー!?何してるにゃ!ボスが嫌ってるツイフェと同じ事にゃ!」


ギーガ「黙れ畜生!貴様こそどみん様にこれ程美味いものをいつも食べさせて貰っているのだろう!わしだって畜生ならば従魔契約しておるじゃろうよ!」


イグル「オイオイオイオイ!?ミィア!?このじーさんマジか!?このじーさんがマジなのか!!?」


どみん「おじいさん、落ち着いてほしいンゴ。そんなに美味しかったのならレシピを教えるンゴ。だからミィアたんをイジメないでほしいンゴよ!」


ギーガ「ほ、ほあああああい!?わしに『ヒヤシチュウカ』を伝承してくださるというのか?なんという…なんという…!!承知仕りました。わしは命ある限り、この世界に『ヒヤシチュウカ』を根付かせ、未来永劫全生物が『ヒヤシチュウカ』の奴隷と成りましょう!!」


どみん「そういう事じゃ無いンゴ!?」


サターン「ギーガ様、この世界を支配するのは『ヒヤシチュウカ』ではないでしょう。耄碌もうろくしましたか?」


ギーガ「なんじゃと!創造主に楯突くきかバカモノめ!!」


サターン「この『唐揚げ』こそが世界に君臨すべきなのだ!!」


一同「「??」」

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