第21話 裏メニュー、油淋冷やし中華ンゴ

サターン「一口食べた瞬間の肉汁の津波、噛めば噛むほど止まらぬ肉汁の暴力。しっかりと味が浸かっているから肉自体か飛ぶほど美味い。そこに表面のカリカリサクサクの生地、そしてマヨネーズなる物を付けた瞬間この為に世は存在したと確信した。この唐揚げによって世界を蹂躙し、全ての存在か唐揚げにひれ伏すのだ。グハハハ!!」


イグル「なんだって!?…よく考えたらちょっといいかもな?」


ミィア「賛成にゃ!でも、冷やし中華も捨てがたいにゃ〜」


ギーガ「愚か者め!ヒヤシチュウカこそ世界をあるべき姿に導く供物だと理解らぬとは…見損なったぞ!!」


サターン「やれやれ、耄碌もうろくじじいには解らないか。もう魔神の名を捨て世に譲るのだ。唐揚げこそ世界あるべき姿と知れ!!」


先程まで快晴だった天候が急に悪化し、黒雲から雷が降り注ぐ。

ギィさんもシムノーンさんももう完全に隠す気が内容で、褐色の肌と中2っぽい紋様と、大きな角が露見している。

屋台の前で暴れられるのは困る。


どみん「あのぅ…」


ギーガ「これは!すみませぬ。この馬鹿を直ぐ様、灰燼かいじんに還しま―――」


どみん「えっと、裏メニューだし時間もかかるけど、唐揚げみたいな揚げ鶏と冷やし中華を両方一緒にした『油淋冷やし中華』っていうのがあるンゴ」


ギーガ・サターン「「ファッ!?」」


どみん「喧嘩するぐらいなら両方一緒に食したらどうンゴ?なんて…」


ギーガ「ヒヤシチュウカとは、先程の物が完成形ではないというのですじゃ!?」


どみん「あ、圧が強いンゴ!冷やし中華はアレで完成形だけど似たような料理なら冷やしラーメンだったり冷やしタンタン麺、あとごまベースの味の違うアレンジ冷やし中華なんかもあるンゴ。どれが完成形とかは無いと思うンゴよ?」


ギーガ「冷やしラーメン、冷やしタンタン麺…既に美味しいそうな予感しかせぬ…!」


サターン「フッ、その『油淋冷やし中華』とやら食ってやらんでもないぞ?」


ミィア「この馬鹿はその辺の草でも食わせればいいにゃ」


どみん「本当はンゴ達の夕飯に仕込んでおいた肉だったけど、よーし作るンゴ!ミィアたんとイグルはどうするンゴ?」


ミィア「もちろんいただくにゃ!」


イグル「食べない選択肢なんてねぇぜ!」


どみん「じゃあ四人前、すぐ作るンゴ!」


熱した油に、片栗粉をまんべんなくまぶした鶏もも肉を投下。

この鶏ももは唐揚げより生姜を強めに付けているので、油であげても唐揚げよりさっぱり食べられる。

その揚げた肉にかけるソース、つまりは油淋鶏用のソースなのだが、単品の油淋鶏ソースより辛味を出すために豆板醤を多めに使う。

【業務マーケット】で買ったじっくり解凍した冷凍葱を一度氷水に泳がせた後細かく細かく刻む。

本来は生の葱の方が食感も香りも良いのだが、今は手に入らないので妥協。

まずは麺を盛り付け、続いて揚げたてで切れ目をいれた揚げ鶏を豪快に上に乗せる。

葱たっぷりで酸味と辛味、生姜が香る油淋鶏のソースを上からかけるとパチパチと油の弾ける音と食欲をそそる香りが一気に広がる。

冷やし中華で使った刻みトマト、きゅうり、たまご、カニカマを添えて、冷やし中華で使ったスープを肉の上からかける。

肉汁と良質な油を吸ったスープが行き渡ったところでごまをふりかけ、最後別皿に刻み海苔と葱を添えたら完成。


どみん「おまたせしたンゴ!冠水食堂裏メニュー『油淋冷やし中華』の完成ンゴ!」


一同「「おぉ〜!」」


この冷やし中華は常連さんに半ば無理やり作らされたらしい。

でも普通の冷やし中華よりボリュームもあるし、肉汁を吸ったスープを絡めた麺は最高に美味くてンゴは好きだ!

でも、人によっては油がくどいとかあるけど…


サターン「辛い!肉肉しい!食感がいい!ひたすらに美味いッ!!先程ギーガ様が調和がなんだとほざいていたが食べてみて気持ちが理解る。トマト、きゅうり、たまご、魚肉をすりつぶしたやつ。これらのバランスはよもや世が知る領域ではない。そしてこの肉だ!なんて物食べされるのだどみんととかいう人族よ!平べったく伸ばされて唐揚げより劣っていると思ったが、食べやすく、衣の食感がよく、おまけに麺と絡みやすくなっている。そしてこの辛いソースだ!辛いだけではない様々な深みが心地よい。麺と絡むことによって辛さが緩和され、より深く本来の旨味を噛み締める事ができる…そしてフォークが止まらぬ!!ずぞぞぞぞぞ―――っ!!この別皿の黒くて細いやつと刻まれた食感のよい野菜が更にこの料理を美味くしたぞ!!?」


ギーガ「それそれが完成されているにも関わらず、組み合わせる事で更なる発見と進化をもたらす…。悔しいですじゃ、わしがかつて不要と切り捨てた創造主の『調和』。その素晴らしさを今になってかつて無いほど全身を駆け巡っておりますじゃ…」


イグル「さっき食べたばっかだから食いきれねぇと思ったけど、香辛料のパンチとこの肉が美味くってガツガツ食えるな!」


ミィア「がつがつがつがつ!!おかわりにゃ!にゃあは辛いの好きにゃ!!」


どみん「満足出来たンゴ?」


サターン「くくく、ファーーーッハッハッハ!!よろしい貴様を我が眷属に―――べゲラッ!?」


ギィさんから目に見えないプレッシャー…たぶん魔力だと思うけど、それがシムノーンさんを包むとバキバキと人が曲がっては行けない方向に曲がって苦しそうだ。


ギーガ「この馬鹿は無視して構いませんじゃ。では主様、ぜひ『冷やし中華』のレクチャーを…」


どみん「…え、今からンゴ?今からレシピをンゴ?」



――――――――――――



ギーガ「おお、感謝致します、我が主よ…」


どみん「すごい熱意で、怖かったンゴーー。」


目がバッキバキで一挙手一投足いっきょしゅいっとうそくに至るまでガンギマリでンゴを監視してた。

レシピやコツを伝えたのだが、葱とか中華麺のかん水とかこの世界で見たこと無い事とナトリウムとか知っている限りを伝えた。


ギーガ「本当に主様にお仕えしなくてよろしいのですじゃ?」


どみん「いやいや、仕えるとかそういうの、ンゴには重すぎるンゴ。商人さんの邪魔にしかならないンゴよ…」


ギーガ「しまった!申し訳ありません主様。わしが商人とは真っ赤嘘です。わしの名は『ギーガ』、この星オルダで魔を司る『魔神』を生業としております…」


サターン「世は七大災厄、魔族を束ねる王『サターン・シムノーン』である!」


どみん「は、はぁ?冠水どみんですンゴ」


イグル「やっぱそう!そうだよな!?本物…か?お伽噺どぎばなしじゃねぇんだ…へー……」


ギーガ「わしはアクシツコレステ王国を滅ぼすのをやめ、一刻も早くわしの『冷やし中華』を完成させ、世に広めますじゃ!」


どみん「はぁ、」


サターン「世も領地に帰り、唐揚げを浸透させてやろう!アディオスアミーゴ!!」


どみん「ほ、ほげ…」


イグル「魔神に魔王…行っちまったな…伝説を目撃したぜ!おもしれぇ!!」


ミィア「ペッ!塩撒いとくにゃ!」

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