第6話 天津飯ンゴ

SIDE ローザ


ついにこのテンシンハンとやらを口に入れる時が来た!

ほあああ!いまスプーンを卵に入れる瞬間、プルプルしたんだけど!?

昔見たイノガシー・ラゴロの冒険譚に空腹は最高のスパイスと書いてあったけど、まさに今私の鼻腔にソースの甘酸っぱい匂い、卵の優しい香り、お米の甘い香りがはっきりと解る。

食べる前から美味しいのは解っていた。

でもどうしても口にしておきたかった。

さぁ!いざ―――


ローザ「はぐっ」


おっ、おおおお、お!おおおおおお!!!

口に含んだ瞬間、ソースの複雑な味わいが脳裏に直撃する!

ビネガーの酸味がバチンと来てから様々な海の味と、奥深い芳醇な香りが口の中を支配する。

そこから噛めば噛むほど卵の風味と柔らかな触感とコメのもちもちとしてじんわりと醸し出す本来の甘みが、それらにとろりとした先程のソースが隅々まで染み渡っていく。

卵とコメにソースが交わった時、雷に打たれたかののような強烈な旨味で全身が震える。

一つ一つが既に美味しいのに合わさることで幸福の波状攻撃が舌の上にいつまでも踊り続ける。

止まらず食べ進める…いや、もはや飲んでいたかもしれない。

最後の一欠片を口に含んで、水を飲み干した。

普段飲んでいるぬるいただの水が、至高にして甘露の如き旨さであった。


ローザ「はぁ〜、あ〜……ふぅ〜」


全て食べきって今気づいたのだが、ちょっと食べすぎてしまったようだ。


リーン「…この天津飯って料理、恐ろしく旨いな。王都の高級料理店で出せば金貨3枚は払わないと食べれないだろう。ソースの絡み具合と卵と米との相性が超越的だった。それにアーシは上に乗ってた蟹の肉のようなモノ(カニカマ)がとにかく好きだな!」


宿おば「ほんっと美味しいわね〜。アタシみたいにゃ庶民には一生食べれないような味ってのは解ったわ〜。本当に銀貨2枚で元が取れたの?」


どみん「うんうん、うまくできたンゴ。ンゴのスキルで元はとれたンゴよ」


宿おば「そりゃあ良かったわ!はい、じゃあ約束の売上の半分金貨8枚分の銀貨80枚と給仕のお礼の銀貨5枚ね。さっきはごめんなさいね、ご令嬢様にあんなお手伝いさせちゃって…」


ローザ「いえ、大丈夫です。貴重な経験になりました…どみん殿はこの格好の僕を見て何か思うことはないかい?(チラッ)」


どみん「いや全然。ここに背負ってきた時背中におっぱい当たってて、女の人って解ってたンゴよ」


ローザ「あ…そっかぁ」


寂しい。

もう少しどきまきしてほしかった。

私だってそれなりに器量はいいはずなのだが?


どみん「それと、ローザスさんに金貨2枚分(銀貨20枚)を返すンゴ。ここに入る時にローザスさんのお金を勝手に拝借してごめんなさいンゴ…」


ローザ「へ?ああ、別に構わないよ。返さなくてもよかったのに。それとローザスって名前は男装用の偽名なんだ。男装じゃない時はローザって呼び捨てにしてもいいんだぞ?」


―――わ!?私は何を!?呼び捨てって、そんな…そんなのか!彼氏とかそういう―――


どみん「出会って2日で呼び捨てはちょっと…男装じゃない時もローザスさんって呼ぶことにするンゴ…」


うん、まぁ解ってたし。

ちょっと浮かれただけだし。

リーン姉さん!ニヤニヤして私の肩叩かないでよ!!


リーン「さて、宿を後にしたらちょっとこの街の冒険者ギルドまで来てくれない?アーシに考えがあるぜ!」



―――エクストラ支部 冒険者ギルド―――



バターン!


リーン 「おい、ミレディ!チャンコ!どこにいる!」


荒くれ者と人付き合い悪そうなローブの人達が酒場の様なところにずらりと並んでいた。

荒くれ者=DQN、ローブ=陰キャ、異世界だからといって変わらることのない不変の営みを垣間見てしまったンゴ…。


ミレディ「な〜によ、もう!人が気持ちよくお酒飲んでるのに〜」


よろよろと近づいてきたのは長髪で胸に無駄な脂肪をぶら下げた服の面積の少ない女と、


チャンコ「ちゃす(こんにちはの意)」


ローブを羽織ったツリ目の恰幅のいい女性でだった。


リーン「ハイ集合!お前らに新しいクエストだ!こいつはアーシの個人的な護衛任務で危険度もざっとAクラス相当になる。マジで危険だし報酬もたかが知れてるから来たくなけれれば来なくてもいい。だけど、信頼できるお前らに一緒に来てほしい」


ガンッとテーブルに頭を打ち付け頭を下げるリーンさん。


ミレディ「なによもう、背伸びしちゃって〜可愛いんだから!お姉さんが手伝って、ア・ゲ・ル!(『銀斧』のメンバーで一番年下)」


チャンコ「ちゃす!(了解の意)」


リーン「すまん…じゃあこの二人を紹介する。まず、お前らは会ったことはあるかもしれないがこいつがローザ・オリーブ。アーシの従姉妹だ」


ローザ「ローザ・オリーブです。リーン義姉ねえさんがいつもお世話になっています」


ミレディ「あー!噂の男装娘ね!昔リーンちゃんのパーティで見たわ!」


チャンコ「ちゃす(同意の意)」


リーン「そんで、こっちののっぽが付き添いのどみんだ!調理が得意だから野宿のクオリティがグッと上がるぞ!」


どみん「冠水どみんンゴ」


ミレディ「あらあら恥ずかしいのかな?前髪で隠れちゃってカワイイ〜。お姉さんは『銀斧』斥候担当のミレディ・レモンサワーよ。よろしくね〜」


チャンコ「ちゃっすぅ!(チャンコ・ゴッチャンス。【ウィザード】。飯食べる好き。調理期待の意)」


おちゃらけたミレディさんと違って鬼気迫るチャンコさん。

ンゴが役に立つのは調理ぐらいだから頑張らなくては…。


リーン「よし、自己紹介は終わったな!今から1時間後に西門からオリーブ領に出立する。まず、西門に陣取った王国騎士団を欺かなければいけないがアーシに考えがある。どみん、ローザ、お前らには変装してもらうぞ!」


どみん・ローザ「「ンゴ?」」




―――1時間後・西門―――


モブ女「ちょっと見て!何あの執事さん!」

モブ女「うわぁ〜かっこいい///」

モブ女「今!私目が合っちゃった!きゃぁ〜!」


ミレディ「あの冴えない男の子がも〜、信じらんない!!超イケメンじゃん!」


リーン「どうだ?どみんは執事服で変装して前髪をオールバックにしただけで印象がぜんぜん違うだろ?ローザはお嬢様してれば向こうは男だと思ってるし大丈夫だろ!」


ローザ「くぅううう、私がこんな…ひらひらドレスを…、西門を抜けたらすぐにでも着替えるんだから…」


どみん「お嬢様、もうすぐ西門に着きます。その様な言葉遣いでは気づかれてしまいますンゴよ(イケボ)」


ローザ「は、はひぃ(お前には言われたくないけど!かっこいいから許すぅ!!)」


ンゴゴゴ、前髪も無くてこんなコスプレで公衆の面前に立つなんておかしいンゴ!恥ずかしいンゴ!

ンゴは陰キャなンゴよ?本当に解ってる?あっ、吐きそう、胃がキリキリするンゴ!早く終わってくれンゴ!


王宮騎士「おい貴様ら、ここは我ら王宮騎士団の預かる場所だ!用のない者はとっとと帰れ!」


リーン「アーシはA級冒険者『銀斧』のリーダー、リーン・エクストラだ。そこの馬車にいる商家のお嬢様の護衛任務だ!クエスト証明書とアーシのギルドカードだ」


王宮騎士「む!そなたはリーン伯爵穣ですか?いやはや我々として通したいのですが…仕事でして、馬車を拝見いたしますぞ?」


リーン「どーぞどーぞ、ご苦労さん」


王宮騎士「これはどうも(ちっ、混じり者のチビが!)」


こっち来た、頑張るンゴ。


どみん「これはこれは王宮騎士様、私の執事のリーミンドと申します。そちらはバージンオイル商会長様の御息女、ストラ・バージンオイル様でございます(という設定)」


おー噛まずに言えたンゴーーー!!

一応“擬態の技法”(冠水流では自己催眠・同調・演技により、あらゆる状況下で対象と自身を欺き有利な状況に運ぶ忍びの術とされるもの)でなんとかなってるけど、アドリブとかなったらボロが出るンゴよ!

ンゴは執事、ンゴは執事、ンゴ執事!


ローザ「よしなに」


王宮騎士「これはこれは器量の良い娘さんだ。しかし…我々も仕事でねぇ〜(にちゃあ)、隅々までボディチェックをしないといけないんですよぉ」


ローザ「な、そんな決まりは―――」


どみん「お嬢様は未婚の乙女、今後もし婚姻に何か支障が出ることがあれば貴様が責任を取れると?」


王国騎士「なんだぁ執事風情が。まぁこの俺自ら責任を取ってやらんでもないねぇぐへへへwww」


どみん「フッ、笑止!貴様如きにその価値がないと言っている。そうか…、その程度を考える知能もないのか、哀れだな」


ローザ「ちょちょちょ!ど、どみ…リーミンド?」


王宮騎士「貴様ァ!叩き切ってくれる!!」


力任せに振り下ろす真っ向打ち下ろしンゴね。

体をローザさんの居る側の馬車側に2寸5分外して、相手の握り中指と人差し指の間に当身(ぱんち)。


王宮騎士「ぐわっ!?」


ハイ!ロングソード離したンゴ。

体感が崩れてるから足を引っ掛けつつロングソードを捻り取って、倒れ込むそのまま首元に刃を付ければ大人しくなるンゴか?

ちょっと首に刃を食い込ませて血を見せてやるンゴよ。


王宮騎士「ひっ―――!お、俺に何かあったら…他の騎士たちや王様達がタダじゃおかねぇぞ!?」


どみん「ふん、タダじゃ済まないのはお前だ。お嬢様に不埒な行為をしようとした貴様を商会長様がタダではすまさないだろう!王都にも影響がある御方だ、貴様は十中八九クビ…いや、国王陛下の事だ、下手をしたら物理的にクビが飛ぶかもしれないな?」


王宮騎士「ひ、ひえええ、命だけは〜」


どみん「ならば退け!私達をこれ以上怒らせるな!―――周りの貴様らも同様だ!道を開けろ!!」


王宮騎士達「「……」」


騎士達が道を開けたンゴ!


どみん「このリーミンド、お嬢様をお守り致します。どうぞ安心しておくつろぎください。さぁ馬車をだせ!」


ローザ「はぁい〜♡」


リーン「ひゃああああ♡」

ミレディ「きゃあああああ♡」

チャンコ「ちゃす(腹が減ったの意)」


モブ女達「「「きゃああああ!素敵〜〜〜!」」」


今後、吟遊詩人に語られてンゴに夢見る乙女が増えることなど考える余裕もないンゴは、緊張で吐きそうになりながら早く西門を通ってくれと祈るばかりだった。



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