バレンタインには遅すぎる

芽生 1/15『裏庭のドア』3巻発売!

バレンタインには遅すぎる


「今年は俺にチョコくれないの?」


 少し甘えたその声に私は肩を竦めて答える。


「……まぁ、なくても仕方ないんじゃない?」

「そっか……」


 彼の手には仕事用の鞄と共にオシャレな紙袋がある。

 職場の女性たちに貰ったのだろう。

 なら、私のチョコレートなんて必要ないに違いない。

 そもそも、もう私達は恋人同士ではないのだから期待されても困るのだ。


「いや、そうなんだけどさ。毎年楽しみにしてたから」

「……あの頃、そう言って欲しかったな」

「ごめん」

「もう遅いよ」


 謝られたって仕方ない。

 毎年、どんなチョコレートにするのか悩んで渡したのに、素っ気なかったのはそっちなんだから。

 でも、どこか寂し気な表情に胸がちくりと痛む。

 関係性が変われば、行動だって変わる。

 私は悪いことなんてしてないはずなのに。

 

 

「……来週ならいいよ」

「え、いいのか?」

「ホワイトデーが近いしね」


 バレンタインが終わればすぐにホワイトデーのチョコレートが店先には並ぶ。

 それでいいなら、用意できる。


「ありがとう」

「まだあげてないんだけど」

「いや、そうなんだけどさ」


 嬉しそうに笑う夫の姿に、私もつられて笑う。

 今年から恋人同士ではなくなった私と彼、これからは夫婦として時を刻むのだ。

 お茶を入れて二人で頂いたチョコレートを食べよう。

 来週は彼へのチョコとお返しのチョコを買わなくちゃね。


 

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バレンタインには遅すぎる 芽生 1/15『裏庭のドア』3巻発売! @may-satuki

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