第53話 エピローグ

——目を覚ますと、眩しい光が差し込んでいた。


しずくは、ゆっくりと瞬きをする。

ぼんやりとした視界の中で、天井が見える。

やわらかいベッドの感触が、まだ完全に覚めきらない体を優しく包んでいた。


「……しずく!」


すぐ隣から、焦りと安堵が入り混じった声が響く。


視線を向けると、そこにはゆうくんがいた。

彼の顔はどこか疲れていて、それでも真剣な瞳でしずくを見つめている。


「よかった……本当に、よかった……!」


長い間、意識が戻らず、ずっと隣で見守っていてくれたことが、その表情から伝わってきた。


つい五分ほど前、しずくが急に苦しみ出したという。

呼吸が乱れ、意識が戻るのかどうかも分からない状態で——

ゆうくんは、ただ、何もできずに見守るしかなかった。


そんな恐怖を乗り越えて、今、しずくは目を覚ましたのだ。



---


しずくは、ゆっくりと呼吸を整える。


「……うん、死んじゃったかと思ったよ。」


かすれた声で冗談めかして言う。


「極限いちご牛乳、とんでもなかった……どちらかと言えば、ゆうくんの思いが、とんでもなかったのかもしれないけど。」


そう言うと、ゆうくんは微かに息を詰まらせ、すぐに俯いた。


「……しずく、ごめん。」


その声は、驚くほど弱々しかった。


彼は、しずくを苦しませるつもりなんてなかったのだろう。

それでも、結果として、しずくは命を落としかけた。


しずくは、そっと手を伸ばし、ゆうくんの手を軽く握る。


「大丈夫だよ。」


その一言に、少しだけ彼の肩が揺れた。


「ゆうくんの思い、ちゃんと全部受け止めたから。」


握った指先に、少しだけ力を込める。


「私の思いも、ゆうくんに負けてなかったって証明できたよ。」


そう言って、しずくは微笑んだ。


--


「……よかった。本当に、しずくが生きていて。」


しずくは、ゆうくんを見上げながら、少し茶目っ気を込めて微笑む。


「ねぇ、飲む前に言ったよね?」


ゆうくんが、わずかに首を傾げる。


「私、ゆうくんのいちご牛乳がないと生きられないって。」


そう言って、しずくは小さく肩をすくめる。


「だからね、もし死んじゃったら……ゆうくんのいちご牛乳、もう飲めなくなっちゃう。」


「なら、天国でも生きられないよ。」


その言葉に、ゆうくんは一瞬だけ目を伏せる。


—— しずくらしいな。

ふふっと、小さく笑う。


しずくは、そんな彼の反応を確認してから、柔らかく続ける。


「ありがとう、ゆうくん。」

そう伝えた瞬間、彼の表情がわずかに変わった


ゆうくんは、しずくの言葉をじっと飲み込むように、一瞬だけ黙る。


ゆっくりと、深く息をついた後——

「……よく頑張ったね。」


そう言って、彼はしずくの頭をそっと撫でた。

その仕草が、どこか優しく、そして温かくて。

しずくは、目を細める。


—— ああ、やっと、ここまで来れたんだ。

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