第40話 あいりの決意
あいりは、カウンターに座るゆうくんにぐっと詰め寄った。
「ねぇ、ゆうくん。私のこと、どう思う?」
突然の問いかけに、ゆうくんは戸惑いの表情を浮かべる。
「あいり? どうしたの?」
「最近、私、可愛くなったと思わない?」
ゆうくんの視線が、無意識にしずくへ向かう。しずくは口をパクパクさせて、*「言ってあげて!」*と無言の圧を送っていた。
「……うん、前より可愛くなったね。」
「え? やっぱりそう思う? どのへんどのへん?」
嬉しそうに身を乗り出すあいり。
しかし、ゆうくんは再びしずくをチラ見。今度は、*「もっと具体的に!」*と言わんばかりのジェスチャーをしている。
あいりの顔が、じわじわと不機嫌になっていく。
「あー、ごめん。あいりを見てたら、可愛さに見とれちゃってたんだよ。ほら、目とか口とか……」
「ふーん。そうなんだ。ゆうくんも、そういう感情あるんだねぇ。」
ニヤニヤと意地悪そうな笑みを浮かべるあいり。
「まぁ、私を見てたくなるのは仕方ないよね。許したげる。」
満足げに頷くが、すぐにまた質問攻めに戻る。
「で、どのへんが可愛いなって思ったの?」
「あー……」
ゆうくんは、困ったようにしずくを見る。すると、今度はしずくがプイッとそっぽを向いてしまった。
(……これ、地雷踏んだやつ?)
あいりの視線が鋭くなる。
「さっきから、しずくばっか見てるけど、分かってんだからね。しずく、可愛くなったな~とか思ってんでしょ?」
「あ、いや、違う違う! あいりばっか見てたら、しずくが睨んでて怒ってるなって……だから、ごめんね。しずく。あいりばっか見ちゃって。」
しずくは腕を組み、ふんっとそっぽを向いたが、すぐに小さく微笑む。
「……うん、許してあげる。」
あいりは、そんなやりとりを見て「やっぱりなぁ」と納得しつつも、さらに追及を続ける。
「で、どのへんが可愛いと思ったの?」
ゆうくんは、あいりをじっと見つめる。
「んー……僕があいりの可愛いところを言った時に、あいりが照れて笑顔になっちゃうところ、かな。」
「え? えへへ……そ、そんなことないよ? 私、可愛いなんて言われ慣れてるし、そんな簡単に笑顔にならないよ。」
そう言いながら、思いっきりニヤけている。
(今みたいなところだよ)
ゆうくんはそう思ったが、口には出さなかった。
「まぁ、いいよ。許したげる。」
あいりは、ふと真剣な表情になり、カウンターをトントンと指で叩いた。
「ねぇ、ゆうくん。私、今日500ミリリットル飲むから、準備してくれる?」
「え? どうしたの、急に?」
「最近、しずくが男の子に告白されまくってんのよ!」
「えっ?」
「見てよ、しずく! 身長も伸びて、手足もすらっとして、おっぱいもおしりもどーん! 腰はキュッ! 髪もツヤツヤ、肌も輝いてる! これ、なんなの!? って考えたら、そう、いちご牛乳の効果じゃん!」
ゆうくんは苦笑しながら頷く。
「うーん……まぁ、確かに最近、しずくは成長したかもね。いちご牛乳は栄養豊富だから、そういう効果があっても不思議じゃない。」
しずくは、恥ずかしそうに顔を赤らめた。
(……ゆうくんになら、見られてもいいかも……)
そんなことを考えながら、髪を耳にかける。
あいりは拳を握りしめて、力強く宣言した。
「絶対にそうなのよ! だから、私も飲む! 毎日500ミリリットル! 女は美容が命なのよ!」
「意思が固そうだね。どうする? いつものいちご牛乳と、特製いちご牛乳があるけど。特製の方は、効果がより高いよ。」
「えっ、そんなのあるの!? じゃあ、特製で!!」
その言葉を聞いた瞬間、しずくがギョッとする。
「ちょっと、あいり。特製いちご牛乳は、当時の私でも相当キツかったよ? あいりには無理じゃない?」
あいりは一瞬たじろいだが、すぐに強がる。
「……いや、もう決めた。私は特製いちご牛乳を500ミリリットル飲む!」
しずくは頭を抱え、ゆうくんを見る。
「もう知らないからね……」
「そうか、あいりは偉いね。美容のためにそこまで頑張るなんて。でも、僕は飲んでくれるのは嬉しいかな。」
ゆうくんは微笑みながら、特製いちご牛乳の準備をしにいった。
あいりは、しずくの方を向き、不安そうに尋ねる。
「……で、特製いちご牛乳って、どんなの?」
しずくは、少し遠い目をしながら答えた。
「今までのいちご牛乳が……なんか薄いなーって思える。ゼリーなんかも大きくなってて、今までの比じゃない。ゼリーは、私も相当苦労したよ……」
その言葉に、あいりは一気に不安になる。
「……ちょっと怖くなってきたんだけど……」
しずくは、真剣な表情で言った。
「ちゃんと、いちご牛乳と向き合って。嫌なところも、好きなところも、全部受け入れる。それが大事だよ。」
あいりは、ゆうくんの思いと、しずくの思いが繋がっていることに、改めて気づく。
もちろん、あいりもゆうくんが好き。でも、しずくには気持ちでも、女としての魅力でも、もう勝てないことも分かっていた。
たぶん、ゆうくんから振り向いてもらうことは、もうない。
でも——。
「……まだ、諦めたくない。」
しずくに対して負けたくない気持ちもある。でも、それだけじゃない。
自分が始めたことだからこそ、最後まで抗って、頑張りたい。
「私だって……証明してみせる。」
あいりは決意を固め、特製いちご牛乳を受け取る準備をした。
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