第39話 花恋の恋

花恋は今日もゆうくんのいちご牛乳を飲みに来ていた。


「今日も、美味しいよ。」

花恋はいつものいちご牛乳を飲んでそう言った。


「最近、肌寒い季節になってきたね。」


「よかったら、温かい飲み物でも出しましょうか。」


「うん、そうね。じゃあ、いちご牛乳をホットでもらおうかな。」


しばらくすると、ゆうくんが持ってきて、カウンターに置く。


ホットのいちご牛乳をスプーンで回し、一口飲む。


−−変わらない。優しい味。

私だけの特別ないちご牛乳は、あのときのいちご牛乳の味。


このいちご牛乳は、花恋専用だよと言って

ゆうくんは、しずくにもあいりにも出さなかった。私の思い出のものだから壊さないようにって。

おそらく、それは彼の優しさだろう。


でもね。私はこの意味に気づいてるんだ。

「ねぇ、ゆうくんは好きな子がいるの?」


「ええ、います。僕が小さい頃からずっと。」


「はっきりいうのね。まぁ、わかってるんだけどさ。ゆうくんはさ、しっかりしてるから、ついつい甘えちゃうのよね。だからさ、ゆうくんには、年上のお姉さんが合うと思うんだ。例えば、私みたいなさ。」


「すいません、僕は花恋さんの思いには応えられません。」


あっけらかんとそう答えるゆうくん。

優しいんだよね。


いちご牛乳をスプーンで回しながら、昔を思い出す。


ゆうくんの夢は、世界一のいちご牛乳を作って、それを飲んで喜んでもらう事だって言ってた。


私はこのいちご牛乳を飲むたびに思い出す。

--私の思いは、あの頃から変わらない。


そして、いちご牛乳から伝わってくる

ゆうくんの思い。

--僕の思いは、あの頃から変わらない。


だから---あの時からずっと変わらない味。


私に世界一のいちご牛乳は出てこない、あの子のものだから。


だから、いつも私には変わらないいちご牛乳。


「実は気になってることがあってね、あの公園でなんで、私にいちご牛乳をくれたのかなって。」

 

「小さい時の事ながら、通りがかった公園で泣いてる花恋さんを見たら、一緒にいてあげないとって思ったんです。いちご牛乳は元気が出るんで。」


「それは分かるのよ。なんで、ゆうくんがたまたま"初めて作った"いちご牛乳を持ってたのかなって。」


「それは、言った方がいいですか?」


「ううん、別にいいわ。わかってるしね。」


いちご牛乳をくるくるスプーンで回す。

「今度、海外にピアノコンサートの遠征に行くんだ。また、しばらく帰って来れない。」


あの時、ゆうくんに助けてもらった分、私も同じように、ゆうくんがさみしい時、つらい時には、私が支えてあげたいと思っていた。でも、私じゃ駄目だったね。


いちご牛乳を最後まで飲み干す。

温かいいちご牛乳が心の中を溶かし包み込む。


少し元気がでた。


「悲しい時に、また飲みに来るね。この失恋のいちご牛乳。」


「花恋さんさえ、よろしければ。」


フリージアの香りを残して、花恋はドアから出ていった。


そう言えば、フリージアは、夏まで咲く花だったなとゆうくんは、ふと思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る